――徹夜ですか。

 そうです。でも、産まなかったんですよ。そうしたら朝、牧場の方が来て「お前なにやってたんだ」「ずーっと見てました!」「ずーっと見られてたら牛も緊張するから、そりゃ生まないよ」「え、そうなんですか?!」って。実際、そこから二晩は産まなかったです。破水したら絶対に産むから、それまではすごい遠くで、気配を消して待ってあげるそうなんです。

 産まれた時はやっぱり感動しました。僕に見られていた緊張で遅らせちゃったのもあるので。ちゃんと産まれてよかったと思って。産んだ瞬間に牛の雰囲気がお母さんに変わって、仔牛を舐めてきれいにしてあげて。放牧されている他の牛たちも、母子のいる牛舎を覗きに集まってくるんですよ。それまで、牧草地でブラブラしていたのに仔牛が産まれるとピンとくるみたいで様子を見に来る。それもなんか凄くて。

 

“キッチンミノル”の由来は…

――せっかくなので、ご経歴についても伺わせてください。キッチンミノルさんのサイトに“大学入学と同時に、写真のおもしろさに出会った”とあったのですが。

 写真部に入ったんです。そもそも僕は高校時代に落語家を目指していたけど挫折しちゃって、大学に行ってなにかを表現したいなと思って。映画か演劇に行こうかなと考えたけど、入部説明会で、先輩から飲みに行こうと言われたら飲みに行かないといけないって言われて、それは嫌だなって(笑)。そこからたどり着いたのが、一人でも出来る写真。落語と一緒で、写真も喜怒哀楽を一人で表現できる点もいいなと思いました。

――キッチンミノルという名前は“大学時代に襲名”とありますが。

 大学が飯田橋で、そばにあったキッチンワタルという定食屋に通い詰めてたんです。それにちなんでキッチンミノルと名乗るようになりました。「襲名」は単なるカッコつけです。

――その頃に広告写真の大家である杵島隆氏に写真を褒められたそうですが、師事されたのですか?

2021.08.25(水)
文=平田裕介