7月26日に行われた東京五輪体操の男子団体決勝戦。橋本大輝、北園丈琉、萱和磨、谷川航の4人が全員五輪初出場であるにも関わらず、堂々とした演技でミスなくこなしていく。そして最後の種目の鉄棒で、19歳のエース橋本が高難度の技を次々に決め、一分の狂いもなく着地を決めた瞬間、なぜかロンドン五輪の競泳男子400mメドレーリレーのシーンが思い出された。
「康介さんを手ぶらで帰すわけにはいかない」
個人種目でメダルを逃した北島康介に対し、メドレーリレーに出場した松田丈志らが発した言葉だった。体操団体の4人も、2日前に種目別鉄棒で落下し予選落ちしたキング・内村航平に思いを寄せ、同じ思いで演技したことは容易に想像できた。
「航平さんを手ぶらで帰すわけにはいかない」
優勝したROC(ロシアオリンピック委員会)に僅か0.103及ばず、銀に終わったが、
彼らの演技からそんな思いが伝わってきた。事実、内村の予選落ちを目撃した橋本はこう語っていたという。
「代わりに僕が鉄棒で獲って、航平さんの首に掛けたい。最高に一番きれいな色を、最高に一番似合う人に」
体操選手にとって内村は特別な存在だった。橋本は内村を心の底から尊敬し絶対的な存在と崇めているし、北園は人生の恩人とも語っている。
「航平さんは、どんなに勝っても常に前に進む」
「中学の時に初めて会ったときは緊張して何も言えなかったけど、航平さんから話しかけてくれて色々アドバイスいただいた。ケガで五輪を諦めていた時も電話をいただいて、『気持ちを切らさなかったら絶対に戻ってこられるから』って。その言葉で生き返った」
代表歴の長い萱や谷川は、橋本や北園以上に内村の薫陶を受けている。
コロナ禍の前、何度かナショナルチームの合宿を見学したことがある。互いにライバルであるはずなのに「その技どうやってやるの?」「空中の感覚はどうなっている?」「そのひねり方教えて」などとワイワイ言葉を交わし、まるで小学生が校庭で逆上がりの練習をしているみたいに楽しそうだった。その中心にいたのはもちろん内村。当時一緒に練習していた田中佑典が顔を綻ばせた。
2021.08.06(金)
文=吉井妙子