冒頭に引用した是枝裕和監督の映画ゼミでも「キャラクターの演技を重視する『演技派』と全体の演出を重視する『表現派』があるとしたら自分は後者だ」と語っているが、キャラクターの魅力でひきつけてファンの二次創作を生む日本アニメのメインストリームに対して、細田守作品の中心にあるのはあくまで映画であり、ストーリーなのだ。

 映像全体の色彩もそうだ。ジブリ、新海誠、庵野秀明という日本アニメで最も大きな商業的成功を収める監督たちの作品の中で、細田守作品は「映像の彩度」を明らかに抑えたトーンで作られている。ワンショットの一枚絵の鮮明さ、目を奪うような映像の美しさではなく、連続して動いていくアニメーションの絵として細田作品の絵は描かれている。それはまるで、糖度の高いフルーツの中に並んだ野菜のようだ。

 その商業的成功から「ポスト宮崎駿」と騒がれる細田守作品だが、実はそうした「糖度の低さ」「映像やキャラクターの魅力で押し切るのではなく、ストーリーを語る」という構造は高畑勲作品に近い。

 

 2019年に東京国立近代美術館で開催された『高畑勲展』の特別ゲストに呼ばれた細田守監督は、高畑勲との個人的な思い出や作品への思い入れを語りつつ(その映像は今もYouTubeで見ることができる)観客の質問に答え「自分は映像監督としては高畑勲より宮崎駿に近い」と語っているが、本来はメガヒットと相性が悪いはずの高畑勲作品のテーマ性と、ポスト宮崎駿とメディアが色めき立つ商業的成功を両立させているのが細田守作品の特異な所だ。

賛否両論を呼ぶ女性キャラクターの描き方

 だが一方、その商業的成功に比して、細田守作品への評価はネット上で賛否が分かれてきた。少女キャラクターをキャッチーなミューズとして消費しない作品の構造は多くの女性観客を獲得する一方、「女性キャラクターが活躍しない、出番がない」という不満も生まれる。

(ネタバレになるが)『サマーウォーズ』の宣伝ポスターで主役然と旗を持ち中心に立つ少女は、実は映画の中で主役ではないし、『未来のミライ』とタイトルに銘打たれた作品の主役は実はミライの兄・くんちゃんである。『おおかみこどもの雨と雪』のラストは弟である雨の母親からの自立で幕を閉じるのだが、女性観客から「えっ、姉の雪ちゃんは?」という声が出るのは無理からぬことだろう。

2021.07.16(金)
文=CDB