●SFファンタジーや音楽映画も手掛ける

――福士蒼汰&小松菜奈の『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』では、ふたたびSFファンタジーを撮られます。

 時間を逆行する話だったりするので、作り手より演者の方が理解するのに大変だったと思いますね。あと、この作品や『陽だまりの彼女』に関しては、いま流行しているファッションを取り入れすぎないことを心がけました。何年後かに観返すと、古く見えてしまうこともあるので、常にちょっとノスタルジックなものを意識しているかもしれません。

――18年、知念侑李(Hey! Say! JUMP)&中川大志の『坂道のアポロン』は、原作は少女マンガですが、内容はジャズに魅了された少年の成長物語でした。

 『ソラニン』『くちびるに歌を』『青空エール』と同じく本作に関しては、音楽映画として捉えているんです。このとき、大林宣彦監督からコメントをいただいたのですが、とても有難かったです。軸に音楽というものがあって、クライマックスに演奏するシーンがあると、どこかゴールが見えている感じがするんですよね。

 メドレーシーンのデモ音源が素晴らしく、さらに手元の吹き替えなしでプレイする2人を撮れるワクワク感がスゴかったです。1960年代という時代設定が持つエネルギーから、台湾映画『モンガに散る』を参考にしました。

●60年前に書かれたSF小説に挑んだ『夏への扉-キミのいる未来へ-』

――20年の吉高由里子&横浜流星が主演した『きみの瞳が問いかけている』では、初のアクション・シーンに挑まれました。

 僕は元々格闘技が好きなんです。しかも、過去に空手大会で世界チャンピオンになっている流星くんが出てくれたので、テンションが上がりました(笑)。流星くんは僕の望み通り、見事に演じ切ってくれましたし、またいつか流星くんと本格的にアクション映画をやりたいですね。

――そして、監督最新作となる『夏への扉 -キミのいる未来へ-』では山﨑賢人主演、清原果耶をヒロインに迎え、新たなSFファンタジーを撮られました。

 『陽だまりの彼女』でもご一緒した小川真司プロデューサーから、最初にお話をいただいたとき、「えっ?」と思いました。1950年代に発表されたロバート・A・ハインラインのSF小説を、今の日本を舞台にして、どうやって映画化すればいいのかと。でも、読み返してみると、物語そのものの強度は今読んでも違和感がない。だから、その物語の面白さを咀嚼して作ればいいんだ、と思いました。

 それで脚本の菅野友恵さんと「自分事になる作品にしたい」という話をして、90年代に好きだったヒット曲を入れたり、2025年の未来世界も自分の住む世界と地続きの空気感を意識しました。

●これからも、いろんなジャンルに挑戦したい

――これまでの監督のフィルモグラフィの中では、いちばんの挑戦作だったのではないでしょうか?

 僕も最初そう思っていたんです。確かに、未来表現とか技術的に大変なところはありましたが、実際にやってみたら、撮影から編集まで、めちゃめちゃ楽しかったんです。なぜなら、これまで僕が手掛けた作品って、キャラクターの感情ベースで物語が展開していく作品が多かったんです。

 でも、今回は出来事というか事件ベースで物語が進行していく作品。それってスピルバーグ監督作品をはじめとする、80年代に楽しんで観ていたエンタメ重視のハリウッド映画のようなんですよね。なので、自分もワクワクしながら作っていました。

――今後の展望を教えてください。

 『きみの瞳が問いかけている』で、ちょっとアクションというジャンルができたように、いろんなジャンルの作品に挑戦したいです。ホラーやサスペンスなど、手掛けたことのないジャンルが、まだまだたくさんありますから。自分の人生観を変えた一本として、ラッセ・ハルストレム監督の『ギルバート・グレイプ』を挙げているのですが、ゆくゆくはそういう作品も撮ってみたいです。

三木孝浩(みき・たかひろ)

1974年8月29日生まれ。徳島県出身。98年、ソニー・ミュージックに入社し、多数のミュージックビデオを手掛ける。その後、2010年『ソラニン』で映画監督デビュー。長編3作目『僕等がいた』以降、『ホットロード』『アオハライド』など、少女マンガ原作の恋愛映画を多く手掛ける。次回作は『TANGタング』(22年公開予定)。

映画『夏への扉 -キミのいる未来へ-』

1995年、ロボット開発に従事する科学者・高倉宗一郎(山﨑賢人)は、愛猫ピートと恩人の娘・璃子(清原果耶)との穏やかな日常を送っていた。だが、信頼していた共同経営者と婚約者に裏切られ、開発中のロボットや蓄電池を奪われてしまう。さらに人体を冷凍保存する装置・コールドスリープに入れられ、2025年の東京で目を覚ます。大切な人を救うため、時を超えるSFラブストーリー。
https://natsu-eno-tobira.com/
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©2021 映画「夏への扉」製作委員会

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2021.07.16(金)
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