同性愛タブー視しない誰にとっても暮らしやすい世界

 その幸福な空気の正体は何なのか。それは「2gether」が同性愛をタブー視していない、という点に尽きると思います。もちろん現実世界はまだまだそうではないので、この世界観はファンタジーともいえます。でも、これは現実世界の一歩先の未来であると信じたい。社会にはびこる差別や偏見がなければ、誰にとっても暮らしやすい幸せな世界になるという希望を「2gether」は見せてくれています。

 ゲイのグリーンに一目惚れされたタインは、困惑はするものの同性愛を気持ち悪がることもなく、否定的な発言は一切しません。もともと女の子が好きだったタインがサワラットに惹かれる際も、異性愛者の俺が男を好きになるなんて……というためらいや苦悩が表現されることはなく、人を好きなるときに誰もが経験する「俺あいつのこと好きかもしれない……」という、ただの恋愛感情の目覚めとして素直に描いています。

 これは現実世界と比べると、かなりアップデートされている描写だと感じます。まず知識としての前提ですが、女性・男性などの相手の性を固定して人を好きになる人もいれば、性別に関係なく恋愛感情を抱く人もいます。それに、昔と今とで恋愛対象の性別が変わったり、自分の性についての捉え方が変わることはおかしなことではなく、普通にありえること。最近はどんなセクシャリティであっても、それが恋や性の対象を決めつけるものではないという性的流動性の考え方も広まっています。

 「2gether」が描いているのは「性の多様性は当たり前」という優しい世界。みんなが同性愛者やトランスジェンダーを受け入れているので、普通に友達に恋愛相談をしたり、愚痴を言ったり、のろけたりもします。恋愛は人が2人いれば成立する単純なものではなく、社会の中で育まれるもの。多くの仲間たちが見守り、応援し、祝福する様子は、本来この社会のあるべき姿だと思います。それに「2gether」は、「愛に性別は関係ないよね」という具合に、同性愛を人類愛に置き換えてあいまいにする物語でもありません。

 ただ異性愛と同じように同性愛も存在しているだけなので、BLですが、男性同士だけでなく女性(もちろんトランスジェンダー女性含む)も異性愛カップルもしっかり尊重されています。誰もが等しく平等なんです。また、カップルが対等な関係性であるのもポイント。異性愛ラブコメでありがちな「男が女を守る」という美学があるわけでもなければ、どちらかが一方的に旧来の性別役割を担わされる描写もない。恋愛関係においてパワーバランスが感じられないところも幸福感につながっていると思います。

 もちろんBL作品すべてがこうではありません。登場人物の差別的言動が放置されていたり、ステレオタイプなBL描写が出てくるドラマもたまにあります。それに現実に沿って作品をつくると、同性愛者であることに悩みを抱えてたり、周りも理解がないという現実にぶつかってしまうことも。LGBTQIA+の現実や苦悩に重きを置いた作品も大切ですが、その苦悩のない世界で当たり前に恋愛する作品があってもいいですよね。

 「2gether」内のカップルたち(サブカップルたちも素敵)を観ていると、社会に根付いた「バイアス」によって生きづらさを感じている人がいない社会の素敵さを、視覚的に理解できる。それが幸福感につながっているのだと思います。異性愛の恋愛ドラマでも、たとえば女性差別のシーンがあると観ていてつらいですよね……。現実を描く大切さも理解していますが、ただただハッピーになれる物語を観て安心したい、そんな夜もあります。不安ばかりが募ってしまうこのコロナ禍では特に。

6月は性的マイノリティの権利と文化の祝祭である「プライド月間」

 6月の今は、多様なセクシュアリティの啓蒙を行う、性的マイノリティの権利と文化の祝祭である「プライド月間」だということをご存知でしょうか。世界規模の取り組みで、Netflixで「LGBTQ特集」が組まれたり、この期間に性の多様性の象徴としてのレインボーフラッグを掲げるお店も増えています。

 実はBLドラマに出演するタイ俳優のみなさんは実際のセクシャリティに関わらず、タイでの同性婚法制化についてSNSやメディアで支持や応援を表明しています。プライド月間に際しても、多くの俳優たちがお祝いのコメントを寄せていました。彼らはLGBTQIA+への権利について常に声をあげてくれているんです。ドラマが描く当たり前であってほしい理想の社会を、実生活でも実現しようと奮起してくれている。その姿勢も含めて、タイBLには心地よさがあるんです。

 今年のプライド月間には、タインとサラワットを演じた俳優のウィンとブライトはレインボーの服をともに着て並んで歩く写真を公開していました(しかも2人の影はひとつに重なっている……)。これはウィンのブランドのアイテムの宣伝ではありますが、自分のブランドでレインボーを掲げるというのがまず素晴らしいことだと思います。

 BLが人気のタイは、性的マイノリティに寛容な国だからでしょ?と思うかもしれませんが、決してそんなことなく、差別や偏見は根強く存在しています。だからこそ、俳優さんたちは根気強く発言し続けてくれているんです。一方で日本は、東京五輪の理念にもある「多様性」の象徴、LGBTQIA+の人権意識に関しても、主要先進国の中で断トツの最下位。海外では80以上の国でLGBTQIA+への差別を禁止する法律が整備されているのに、G7で法整備されていないのは日本だけです。議論されていたLGBT新法法案も了承見送り。同性婚も認められていない。政治家による差別的発言も依然と続き、世界的にみてもまだまだの現状です。もっといろんな方面から声があがるといいのですが……。

 当事者でない人たちにとってプライド月間は、LGBTQIA+やそれを取り巻くトピックについて学ぶためのリマインダーでもあります。この機会に『2gether』を鑑賞すること自体、意味があると思います。きっと多様性に対する受容度がぐんと広がるはず。映画にはハッピーエンドが約束された素敵な世界が待っています! 必ず幸せにするから、観て! これから向かうべき社会の姿がそこにあります。BLもGLも、そうじゃないセクシャリティの主人公のラブストーリーも、ラブがないストーリーも。これからもっと増える、その布石となる作品になりうる力がある作品です。

映画『2gether THE MOVIE』

主演:ワチラウィット・チワアリー、メータウィン・オーパッイアムカジョーン
監督:ウィーラチット・トンジラー、ノッパナッ・チャウィモン、カニタ・クワンユー
提供:アスミック・エース、コンテンツセブン、クロックスワークス
配給:アスミック・エース
全国公開中
http://2gether-movie.asmik-ace.co.jp/

綿貫大介

編集&ライター。TVウォッチャー。著書に『ボクたちのドラマシリーズ』がある。
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2021.06.23(水)
文=綿貫大介