仕事に対する姿勢は誰よりも真面目で、任された仕事は期限内にきちんと終わらせるため、人付き合いは悪くても周囲の評価は悪くなかった。そんなEさんにとって、リモートワークは最適な労働環境。まさに「水を得た魚」のようだ。

 

リモートワーク中の平均的な一日

 在宅勤務中のEさんの平均的な一日はこんな感じ。

・朝8時頃に起床。簡単な朝食。
・9時から13時まで自宅で仕事。
・その後昼食をとって昼寝。
・15時頃から再び仕事をして、19時か20時頃に切り上げる。
・夕食のあとは軽くビールかワインを飲みながら、YouTubeなどを見て過ごす。
・日付が変わる頃には自然に眠くなるので就寝。
・特別な用事がない限り、基本的に土日はゴロゴロして過ごす。

 以前は週に1回か2回ジムに行っていたが、最初の緊急事態宣言でジムが休業して以来、行っていないし行くつもりもない(手続きに行くのが面倒なので退会はしていない)。食材は週末に近所のスーパーに買いに行くが、ウーバーを利用することも多い。その気になれば1週間で一度も外出しないで過ごせる自信はある。言い忘れたがEさんは独身で、この数年は女性とのお付き合いもない。結婚願望もないという。

 さて、こんなEさんを医学的に分析するとどうなるのか。横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長で心療内科医の山本晴義医師が解説する。

「出勤日に頭痛や吐き気が出るのは自律神経失調症のストレス反応ですが、これをもって“病気”と認定するのは時期尚早。コロナ禍で起きているメンタル不調のなかでは軽いほうだし、考え方次第ではEさんは“幸せな人”ですよ」

 当人としてはかなり悩んでいるようなのだが、本当に「幸せ」なのだろうか。

「Eさんの悩みは『コロナ禍が収束したら』とか『通勤が再開したら』という“将来の不安”によるものです。いまは何の苦痛もなく、それどころか快適な毎日を過ごしている。単に将来の不安を予期し過ぎていまの幸せに目が向けられない状況なのです。

2021.05.28(金)
文=長田昭二