津山市は岡山の北部に位置する四方を山で囲まれた盆地。B級グルメの「津山ホルモンうどん」で津山の地名を知っている人も多いのではないでしょうか。この津山、肉食が禁止されていた明治以前から「養生食(ようじょうぐい)」として庶民のあいだで牛肉が食べられていたこともあり、食べる部位や調理法のバリエーションも豊富なんです。そこで今回は、牛肉好きなら一度は現地で味わいたい、津山の牛肉料理についてご紹介します!


干し肉、ヨメナカセ、ソズリ肉。不思議な名前の絶品牛料理!

 津山は、昔から農耕用の牛の飼育が盛んで、食肉加工や肉の卸売業が発達したと言われています。また、太平洋側の姫路と日本海側の松江を結ぶ街道「出雲街道」が通っていることもあり、古くからの交通の要所で、国内屈指の牛の流通拠点にもなっていたそうです。江戸時代には仏教の影響もあり、肉食は禁止されていましたが、津山藩の領内では、近江彦根藩(滋賀県)と並んで薬として食べる「養生食」として肉食が認められていました。「健康のために薬として食べる」という意味で、これが津山の牛肉文化の原点と言えるかもしれません。

 人口のわりに焼肉や鉄板焼きの店も多く、スーパーマーケットの精肉売り場面積も広いという津山。また、桜で有名な津山城址の鶴山公園では、花見をしながらBBQをする市民も多いそうで、このエリアの人々に肉食文化が深く根付いていることがうかがえます。そう聞くと、その独自の肉食文化が気になるし、無性に食べてみたくなるというもの。

 そこで津山出身の食通が「何を食べても美味しい!」と教えてくれた、肉料理居酒屋「炙家 ぼっけもん」に伺ってみることに。

 「炙家 ぼっけもん」は牛肉料理を得意とする居酒屋だけあって、お品書きは牛肉の色々な部位が使われたメニューが並びます。串焼き、サラダ、あえ物、炒め物、鍋物のほか、〆のご飯ものまでもが牛肉尽くし。串焼きは、ホルモン好きにはおなじみのタンやミノ、キモ(レバー)はもちろんのこと、オオカクやソズリなど耳なれない名前も。

 オーナーシェフの永松雄将さんによると「オオカクは横隔膜の一部で適度な霜降りもあってやわらかい口当たり。また、ソズリというのは削る、の方言で、牛の色々な部位の骨に残った肉を削った部分を指します。モモ、アバラなど部位によって脂の量に差があるので、どこの部位のソズリか、によって味わいも変わります。串焼きや炒め物のほか、“ソズリ鍋”という醤油ベースの鍋物にして食べるのがおすすめ。具材にゴボウを入れるのが必須です。夏だとセリが入ります」。ソズリ鍋は要予約なので、この日は残念ながらいただけなかったのですが、牛肉の脂がスープに溶け出して、さぞかし美味しいんだろうな~。

 「干し肉」も津山名物と聞き、ビーフジャーキーのようなものを想像していたところ、登場したのはサイコロ状の焼かれた牛肉。口に運ぶとほどよい噛み応えがあり、牛肉の美味しさが凝縮されていて旨味たっぷり。お酒がどんどん進む味わいです。「通常は牛モモ肉を塩でもんでから陰干し、その後天日干しにしますが、うちのは“カッパ”と呼ばれる希少な部位を使っています」と永松さん。なるほど、やみつきになる美味しさ!

 この店オリジナルの「極ヨメ」は「ヨメナカセ」と呼ばれる心臓のまわりにある大動脈の、さらに心臓に近い部位。厚みがあってやわらかいのが特徴です。見た目はイカのようですが、コリコリとした食感と淡泊な味わいが魅力で、焼いて調味は醤油のみ。気になる名称の由来は「調理がしにくいので嫁が料理するときに困る」とか「誰が料理しても美味しいから嫁の出番がない」とか「美味しいので姑が嫁に食べさせない」など諸説あるようです。

 〆のご飯ものも牛肉in&onが勢ぞろい。「牛むす」はご飯に生の牛肉をまぶしてボール状にした焼きおにぎりで、出汁と一緒に提供。牛そぼろ丼、牛薄切りがのったお茶漬け、干し肉を加えたチャーハン、和牛にぎりなど、どれで〆ようか大いに迷う!今日はお腹いっぱいですが、未オーダーのメニューもたくさんあって、また来なければ!と心に誓うこと必至。

炙家 ぼっけもん

所在地 岡山県津山市伏見町28-1
電話番号 0868-23-2994
営業時間 18:00~22:00(21:30 L.O.)
休日 日曜(不定休)
http://www.tsuyamakan.jp/gourmet/detail/?pk=3

2021.05.02(日)
文=CREA編集部
撮影=嶋崎征弘