人生のモヤモヤから解き放たれる

「生きるとか死ぬとか父親とか」

 TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」リスナーなので、楽しみに放送を待っていた今作。第1話の冒頭5分ですでに心を掴まれました。期待を裏切りません! このドラマは、テレビを含めさまざまなメディアがこれまで「こう生きるのが正解です」と示してきた通りの生き方をできない人たちにも、しっかり寄り添ってくれる作品になっています。 

 原作の『生きるとか死ぬとか父親とか』はジェーン・スーの自伝的エッセイ。つまり本作の主人公のトキコ(吉田羊)はもちろんジェーン・スーがモデルです。自身の家族の出来事と思い出を描いたリアルストーリーになっています。トキコのビジュルが公開された時、吉田羊の姿がジェーン・スーに瓜二つでびっくりしました。ターバンとメガネだけでこんなにも似るものでしょうか。吉田羊、おそるべし! これだけでドラマの成功は確信できます。

 主人公のトキコは20年前に母を亡くし、今では父の哲也(國村隼)がたった一人の肉親。愛嬌はあるが破天荒な70代の父と、独身で勝気な40半ばの娘。二人だけの家族による愛憎物語です。この前まで「俺の家の話」という素晴らしいホームドラマがありましたけど、今作はまさに、ジェーン・スー版の「俺の家の話」。誰にとっても普遍的であり、同時に特別な「家族」という存在の、ひとつの姿が描かれています。ホームドラマはこれまでもさまざまありましたが、家族に「ありきたり」や「あたりまえ」なんてことはないんですよね。観ていると自然と、自分の親のことも「元気かな〜」と思い出してしまします。1週間に1度、平日バリバリ働いてやっとたどり着いた金曜の夜に、ふと家族に思いを馳せるというのも素敵なことのように思います。週末、連絡してみようかな。

 トキコはエッセイストでもあり、ラジオパーソナリティでもあります。劇中のラジオ番組「トッキーとヒトトキ」の中にあるお悩み相談のコーナー「晴れときどきお悩み」も必聴です。人生の酸いも甘いもつまみ食いしてきたジェーン・スーの真骨頂とも言えるのがこの人生相談。その素晴らしい手腕がそのままドラマで再現されています(ラジオシーンのセリフはすべてジェーン・スーによる監修のもと制作)。リスナーからの人生のお悩みは、結婚のこと、家族のこと、生き方のことなど、誰しもが一度は考えるであろう共感性の高いものばかり。トッキーからのアドバイスに視聴者自身も救われること間違いなしです。

 たとえば「結婚は誰もがするもの」とかそういう古い常識や価値観に苦しんではいませんか? 自分だけではどう受け止めて、どう生きたらいいのかわからないことはたくさんあります。でも、自分が歩みたい人生を既に歩んでいる人がいたとしたら、希望が見えるし、そこを目指すことができますよね。この作品を観れば、新しい生き方のロールモデルが見つかるかもしれませんよ!

ドラマ24「生きるとか死ぬとか父親とか」

テレビ東京系 毎週金曜0:12~0:51
出演:吉田羊 國村隼 田中みな実 DJ松永(Creepy Nuts) 他

綿貫大介

編集&ライター。TVウォッチャー。著書に『ボクたちのドラマシリーズ』がある。
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2021.05.01(土)
文=綿貫大介