時間軸にも場所にもとらわれず必要とされる場所で生きてきた

――那須での牧場運営、東京での芸能活動、そしてホームタウンの宮崎。3つの拠点を行き来するのは大変ではないですか?

 ロンドンの学校にいる二人の息子が、コロナの影響で帰国して宮崎でリモート授業を受けているんです。昼夜逆転生活で、私一人ではパンクしてしまうので、両親にサポートしてもらっています。だから昨年は、夏の間はずっと牧場で働いて、冬はほとんど宮崎、その合間に東京で取材や撮影のお仕事、という生活でした。

 でも、もともと時間軸とか場所とかにとらわれた生き方はしていなくて、これまでも東京、宮崎、ロンドンという3拠点で生活していましたし、その中に新しく那須が入ってきたというだけ。そういう意味では、「地の時代」においては本当にアウトサイダーだったんだと思います(笑)。

――逆に紗栄子さんに時代が追いついた(笑)。

 そういうライフスタイルも受け入れてもらえやすくなった気はしますね。これまでは「大変ですね」なんて言われることが多かったんですが、必要とされている場所がこれだけあるって、むしろハッピーじゃないですか(笑)? 移動中は、自分ひとりになれる貴重な時間だし、ゆっくり本も読めるし。移動も楽しいし。

――昨年以来、さまざまな生活様式の変化が求められていますが、紗栄子さんは常にご自身のスタイルを貫いているように感じます。

 これまでに自分の人生観が大きく変わるような出来事って、あまりなかったように思うんですよね。あえていうならグラデーションのようだったというか。

――グラデーション?

 はい。占星術だと「地の時代」から「風の時代」になりますっていっても、この日から一気に変わるというわけではないと思うんですよ。むしろ、徐々に向かっていたと思うんです、サスティナビリティの意識の高まりとか、SDGsとか。人も、企業や社会も、グラデーションのように変化してきたんじゃないかな、と。

 私個人で考えても、10代後半とか20代前半の頃はもう欲しいものがいっぱいあったし、いただいたお給料が全部ファッションに消えていったこともありました。でも今はもう自然にそんなことはなくなりましたね。大切なものは大事に長く使うようになりましたし、作り手としてもコスパだけを重視せず、フェアであるかとかを意識して、適正価格で商品を作りたいと考えている。

 だんだんと視野が広がって、そういう考えにたどりつくよう、時代とともにグラデーションのように変化してきたように思います。

――確かに、徐々に人々の意識が変わるからこそ、時代が変わっていくのでしょうね。

 そうですよね。もちろん、まだ変化についていけない部分が私たちにもあるかもしれないけれど、下の世代の子たちはちゃんと教育を受けているから、私たちよりもSDGsの項目に詳しかったりするわけですよ。

 その世代が大人になり、私たち世代の考え方の幅が広がった時こそ、何か新しい価値観が築かれるタイミングなんじゃないかと思います。その時にはどんなふうな社会になっているんだろう、少しでも平和につながる社会、環境にも優しい社会になっていてほしいなって。

 そんな社会を作るのは、今の自分たちの選択次第だから、ひとつでも多く、優しい選択を積み重ねていければいいな、そのお手伝いが自分も、自分の会社もできていたらいいなって思いますね。

自分にとって何が大切か、何が心地よいかを選択していく

――新型コロナウイルスの影響もあり、変化を求められる日々に漠然とした不安を抱えている人が増えているように思います。

 うーん、不安を乗り切るためのメソッドは、人それぞれだから難しいですよね。でも、私は自分を自己肯定できる部分をしっかり持つこと、そのうえで、自分にとって何が大切なものかを見極めることが重要なんじゃないかと思います。

 欲しいものの全部が全部手に入ることなんてないし、やりたいことがすべてうまくいくわけじゃないから、これとこれだけ達成できていればいいとか、自分の幸せの優先順位はこれで、1と2だけ埋まっていればいいよねとか、ちょっとした妥協やバランス感覚がすごく大事だと思うし、それを問われた1年だったなって。

 不自由なことが増えて自分も家族も疲弊していって、何がいいことかが分からなくなり、かといって人から聞いて鵜呑みにしたことが正しいわけでもなく、既存の概念や価値観が悉く揺らいだ1年だった。そういう意味で、自分にとって何が大切かを見つめ見つける1年でもあったと思います。

――自分にとって何が大切か、自分はこのままでいいのだろうかと自問しつつ、それでも答えが見つからない人も少なくないのではないでしょうか。

 自分がいる環境の中では、しんどくても自分でもどうしようもできない事柄もたくさんありますからね。でも、そういう時、私にとっての答えは結局「変える」でしかないんです。「move on」しかないんですよ。

 もちろん仕事や環境を変えるのは簡単なことじゃないって分かっていますが、ここではなく他に自分が心地いい場所があって、しかも誰かの役に立つ場所であるのならば、もう、すぐに居場所を変えるべきだって思います。

 だから、もしうちの牧場や私の会社で辞めたいと思う人がいるんだったら絶対止めないですし、「行ってらっしゃい!」って送り出します。人って、その時々で心地いいものや場所は変わるはずだから。それでいいと思うんです。

――紗栄子さん自身も、そうやって新しい環境を切り開いてきたんですね。

 そうですね。私はやっぱり、自分が好きなこと、心を震わせたことを仕事にしたいし、必要とされているところでしっかり咲きたい。規制の枠組みや力に屈して、大切なものを守れなくなる自分は嫌。だから、いつでも自分で自分が心地よくいられる環境を選択していたいんです。

 それができるのは、信頼できる仲間がいるから。この仲間がいれば大丈夫だ、この新しい仲間たちと頑張ろうって思える人たちと出会えているからなんです。だからこそ、「Think FUTURE」という自分の会社を立ち上げ、「Think The DAY」という新しい一歩を踏み出すことができた。その責任は自分にかかってきますが、すごく気持ちいい責任だなって思いながら、一歩ずつ歩き始めたところです。

紗栄子(さえこ)

1986年に宮崎県で生まれる。二児の母。14歳で芸能界デビューし、タレントや女優、モデルとして活躍。10代の頃から商品開発に携わり、ファッションやコスメを中心にさまざまなブランドプロデュースを手掛ける。2010年より支援活動を始め、2019年10月に社団法人Think The DAYを設立、代表理事を務める。2020年8月より拠点を栃木県に移し、「NASU FARM VILLAGE」の運営に参画。
http://thinktheday.org/

2021.04.27(火)
構成=張替裕子(giraffe)
撮影=平松市聖
ヘアメイク=石川ユウキ
スタイリング=田中美穂子