松居大悟監督が、自身の体験を基に描いたオリジナルの舞台劇を映画化した『くれなずめ』。成田凌や高良健吾らの高校時代の仲間を演じる目次立樹。昨年話題となった映画『アルプススタンドのはしの方』では教諭役を演じていた。「劇団ゴジゲン」の看板俳優の熱い想いに迫る。
●グウィネス・パルトローに恋して
――幼い頃の夢は?
鳥取県境港市の水木しげるロードにある妖怪の銅像を見たときから、彫刻家に憧れていました。両親の知人が作っていたんです。でも、気付いたら、島根大学に入って、サラリーマンになって、普通の家庭を築きたいと思うようになっていました。
――そこから、慶應義塾大学に入学される理由は?
進路指導がとても厳しい高校に通っていながらも、落ちこぼれだったのですが、ある日、映画『愛しのローズマリー』と『大いなる遺産』を観て、グウィネス・パルトローさんに恋をしてしまったんです。それで、彼女と釣り合う男になるために猛勉強を始めたら、慶應義塾大学に入ることができたんです。
――そして、演劇サークルで出会った松居大悟さんとともに、06年に「劇団ゴジゲン」を旗揚げされます。
それまで演劇を観たことはありませんでしたが、日本映画学校に通っていた一歳上の姉の影響もあって、興味を持ち始め、演劇サークルの新人公演に出ることになりました。
大学では芝居をずっとやってきて、松田優作さんや岡本太郎さんなど、熱い男に憧れていたこともあって、卒業後にひとりでバイトしながら、役者を目指すことになりまして……。そしたら、まだ留年していた松居から「今度劇団を旗揚げするんだけど、ホームページに名前載せておいたわ」と連絡が来たんです(笑)。
●「ゴジゲン」活動休止の3年間
――その後、松居監督は映像業界で注目されていきますが、11年に「ゴジゲン」は活動を休止してしまいます。
最初の頃は年に2、3回ぐらい公演をやっていて、そのたびに観客動員は伸びていましたし、劇場も大きくなっていき、劇団としてはトントントンと上り調子でした。
それで、松居は脚本家として注目され、ドラマ『ふたつのスピカ』でNHK最年少のドラマ脚本家としてデビュー。
僕の方はといえば、鳴かず飛ばずで、特に大きな変化はありませんでした。役者だけでは食べていけないですし、しんどくなっていったんです。さらに、3.11が起こってしまったことで、「別の生き方があるんじゃないか?」と思うようになりました。
――そして、栃木での農業修行を経て、地元・島根にて俳優、農家、ワークショップデザイナー、児童クラブの先生として活動の場を広げていきます。
「自分で食べるものは自分で作れるようになろう」というテーマの下、農業を始めたわけですが、そのほか、自分が理想とする暮らしに向かって、地道にやっていきたいと思うようになっていました。
だから、その3年後に、「ゴジゲン」が再結成するなんて、その頃は考えてもいませんでした(笑)。
――そして、14年の「ゴジゲン」再結成を機に、本格的に東京での俳優としての活動を再開されます。
今度も突然、深夜にベロベロに酔っぱらった松居から連絡が来て、「もういちど、『ゴジゲン』をやりたいんだ!」と言ってきたんです。
正直な話、地元の暮らしがあるから、厳しいと思いつつ、「いいよ」って言ってしまったんです(笑)。そしたら、翌日には再結成公演「ごきげんさマイポレンド」をやる劇場を押さえていて、やらざるを得ない状況に追い込まれたのです。とりあえず「農閑期だけにしてくれ!」と言ったことを覚えています。
2021.04.23(金)
文=くれい 響
写真=平松市聖
ヘアメイク=武部千里
スタイリスト=小笠原吉恵(CEKAI)
衣裳協力=KOH'S LICK CURRO