思えば「エヴァ」シリーズも観客と共犯関係を結び「これは自分の物語だ」と思わせることで成長した作品なのではないか。

 ロボットアニメの体裁をとりながら主人公たちの内面にフォーカスを当てた展開や演出、キリスト教や心理学からの数々の難解な引用、謎解き要素、TV版放送時から雑誌などのメディアを通じて漏れ伝わってきた過酷な製作環境のエピソードでさえ庵野監督の狙いの範疇だったのでは、と思えてくる。TV版最終2話も作画や演出を含め放送前から計画に含まれていたという話もある。

 冷静に考えれば「プロフェッショナル」冒頭の畳に倒れ込む彼に「第九」をエモーショナルに重ねた演出もそこに取り込まれてしまった番組スタッフによる「孤高の監督」演出の一端なのかもしれない。

庵野監督自身を神格化させないバランス

 それでいてこの番組が素晴らしいのはその共犯関係にとどまらず、プライベートなパートナーでもある安野モヨコさんを始め身近な人々のエピソードを紡ぐことで庵野監督自身を神格化させないバランスをとっていることだ。

 天才肌で狂人的だがまるで子供のような、それでいてどこか普通の大人のような、そんな掴みどころのない魅力的な人間として描き出される。しかし番組冒頭でドキュメンタリーに協力した理由のひとつとして「(世の中の人が)謎解きに興味がなくなってる」とも発言していたので、もしかしたらこの感想も彼の手のひらの上で踊らされているだけなのかも、という不安は残る。

 

 番組終盤、スケジュールがギリギリな中での脚本リライトなど数々の困難を乗り越え、旧作から続投している声優陣たちのアフレコを経て作品が完成し、初号試写を迎えるシーンはとても感動的だ。

 監督は開始前に挨拶だけして試写室をあとにしてしまったが、その感謝の言葉には力がこもっていた。上映中、スタッフの中には涙でマスクを濡らす人もいた。長期に渡る制作の苦労が報われたであろう表情にこちらも感動すると同時に、そうだ、この間にコロナというあらたな敵も社会に登場したんだ、とあらためて痛感するシーン。

2021.04.03(土)
文=RAM RIDER