さりげなく聞き耳を立てていると、T田さんの電話は淡々と続いていく。
「ですからお客さま、支払えないではこちらも困るんですよ。なぜ支払ってくださらないのですか?」
長期延滞の債権回収は督促する側も辛い。相手がお金に困っているのがわかっていても、契約に則して時には厳しいことを言わなければならない。
そして、交渉も終盤に差し掛かった頃、私は思わず顔を上げてT田さんを二度見してしまった。
電話を終えるクロージングにさしかかると、T田さんの声と口調がガラリと変わった。
甘い声で労いの言葉をかける
「色々厳しいことを申し上げましたが、くれぐれもご無理はしないでくださいね。お客さまのお体が一番大切なんですから……では、ご入金お待ちしています」
(だっ、誰だ!? この甘い声は!?)
クロージングのT田さんの声は、思わずつっこみを入れたくなるくらい優しく甘い声だった。いきなり労りの言葉をかけられて、お客さまもビックリして「ハ、ハイ!」と声を上ずらせて返事をしている。
そう、これがT田さんがキツイことを言ってもお客さまに好かれる秘密だった。
どんなに感じの良い交渉をしていても締めの言葉がぞんざいだったり雑だったりすると、「なんか感じ悪かったな~」とその電話全ての印象を悪くする。
でも逆に、最後の言葉さえ印象がよければ、その会話全体の印象がよくなることもある。いや、むしろ今までずーっとシビアでキツイ話をしてきた分、その後に優しい言葉が出てくると好感度が急上昇するのかもしれない。
最初はツンツン冷たくても、後からデレッと優しい。ひょっとしてこれが「ツンデレ効果」というものかっ!
相手に厳しいことを言ってもなぜか好かれてしまう、T田さんの「ツンデレ・クロージング」恐るべし。これはほかのことにも使えるかも。また一つ、督促のおかげで勉強になりました……。
◆『督促OL修行日記』を1回目から読む。
2021.03.14(日)
文=榎本まみ