損得だけで考えるという手もありなんじゃないかなと

──「敏感も鈍感も表裏一体」というのは、非常に奥深い言葉です。1話目は、いきなりクレーマーの登場から始まりますが、このクレーマーが実は2話目の主人公・アダチさんとして描かれています。誰かを傷つけた人は、裏から見たら実はほかの誰かから傷つけられている人なのかもしれないと、この話を読んで気がつきました。

 総菜屋でパートをしているアダチさん。自分勝手なパート仲間にふりまわされ、セレブな客から総菜の詰め方で文句を言われ、電車では大股を広げたサラリーマンの隣で小さくなる……。そんな毎日を繰り返すうちに、「自分だけが損をしている」という思い込みが肥大化してしまう。

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益田 積み重なっていく「損」のせいで、温和なアダチさんの感情が溢れ出してしまいました。

 誰にだって日々の暮らしの中でムッとすることはあるものです。バシッと言ってやりたいと思うこともあるでしょう。そんな時、

「待てよ、ここで怒ったら今はスッキリするかもしれないが、次からこの店に来るのが気まずくなる。そうしたらわざわざ遠くの店に行かんとダメやし、それはものすごく時間の損になる、ここは我慢や」

 などと、もう単純に損得だけで考えるという手もありなんじゃないかなと思っています。

 

孤独にも強弱がある

──スナックを出たアダチさんにママが差し出した「お得なカード」は、私もほしくなりました。こういうリアルさを感じるのは、益田さんご自身の経験も描かれているからですか。

益田 フィクションなのでわたしの経験ではないですが、どれも自分の経験のような気持ちになって描いていました。

 作中にメイちゃんという女子高生が出てきます。母親に、自分のお弁当箱くらい自分で洗いなさいと注意されますが、そんなのはわたしの仕事じゃない! という態度。思い返せば、若い頃のわたしもそういう態度で親に接していた時期がありました。時間とともに、なんて傲慢だったんだろうと呆れることがあります。

2021.03.06(土)
取材、構成=相澤洋美