──「がんばれ」と決して言わない「スナック キズツキ」のママは、自分自身も傷を抱えているからこそ、相手の痛みがわかるのでしょうか。

益田 傷ついた者しかたどり着けないスナックなので、やはりこの店のママも傷ついてここにたどり着いたひとりと考えました。ママ自身が求めていたスナックなのだと思います。どんな客がやってきても淡々と接しほぼ笑わないママですが、客の話を一切、否定しません。言いたいことを言えず、いろんなことを抱え込んでやってきた人にできることは、それしかないと彼女は考えているのだと思います。

 

無自覚に他人を傷つけてしまった人も、傷つけられたりする

──このスナックには、次々と傷ついた人が訪れます。なぜこのような形式で描こうと思われたのですか。

益田 描き始めるまではまったく違うものを考えていたんです。最初に登場するコールセンターで働くナカタさんという女性がいるのですが、彼女を主人公にしようと思っていました。ナカタさんは仕事で理不尽な客にやいやい言われ、プライベートでは彼氏に気を使ってばかり。そんな彼女が「スナック キズツキ」で癒されながら立ち直っていく。そんな物語を考えていました。

©iStock.com
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 でも、描き始めるとナカタさん以外にも傷ついた客が来て、みなが『スナック キズツキ』の主役のひとりになっていました。

 ナカタさんは仕事でもストレスを抱え、自分のペースを崩さない彼氏にも内心かなりの不満を抱えている。しかし、この彼氏にも実は別の「傷つき」エピソードがある。無自覚に他人を傷つけてしまった人が、別の角度で人から傷つけられたりする。そんな人間の弱さにも、益田さんはそっと寄り添う。

益田 作中にタキイ(弟)くんという若者が出てきます(※編集部注:第1話の主人公「ナカタさん」の彼氏)。会社では要領よく立ち回り、忙しい合間を縫って付き合っている彼女のフォローもしています。彼はおそらく自分に鈍感な部分があるなど微塵も思っていないのです。けれども実際は、先輩にムカつかれていたり、彼女にうんざりされていたり。敏感も鈍感も表裏一体。わたし自身もそうだと思います。

2021.03.06(土)
取材、構成=相澤洋美