「原稿用紙にペンで書いてるの?」
文壇の中心を担う書き手が若返っていっても、世間の持つ“作家”のイメージは変化していないようにも感じられる。
遠野 私が気になるのは、作家像みたいなものを押し付けられること。今はもう諦めたのか言われませんが、ツイッターを始めた当初は知り合いに「もっと作家らしいことつぶやきなよ」って言われたのです。作家が作家らしいツイートをしていたら何も面白くないですよね。そもそも作家らしいツイートって一体なんなんでしょうね。
朝井 その人も説明できなそう。私は結構、同業者間で作家像の押し付けを感じます。兼業時代、上の世代の作家とお話ししていると、「会社なんて早く辞めろ」みたいに言われることが多かったです。そもそも他の仕事ができるんだったら小説家にならなくていいと。あと「不幸な目に遭わないとおもしろいものを書けないよ」とか。作家の間でさえこうだから一般の方のイメージが凝り固まるのも仕方ないですよね。
遠野 「原稿用紙にペンで書いてるの?」と聞かれることがあります。世間の作家に対するイメージはまだその段階なんでしょうね。スマホで書いてるの?と聞かれるのならわかりますが。
朝井 そういう話を聞くと、むしろ世間は作家像をアップデートしたくないのかもしれませんね。作家たるもの文壇バーで葉巻を吸っていてほしいのかもしれない。遠野さんに関する記事で、King Gnuが好きだという文言が見出しになっているものを見ました。King Gnuは超メジャーグループだし、同世代で嫌いな人のほうが稀ですよね。それなのに特筆すべき情報としてピックアップされるところに、芥川賞作家のイメージを感じますね。
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1時間半を超える対談では、執筆や創作の秘話、次回作や小説家としての今後についてまでが存分に語られた。
この対談「『新世代』の看板を下ろすとき」の全文は、「文藝春秋」3月号および「文藝春秋digital」に掲載されている。
2021.03.01(月)
文=「文藝春秋」編集部