見て 食べて 触れて 五感で楽しむ窯元へ

 延々と山と田園風景が続く中に、ふと現れたのは、「クラフト館 岩井窯」。中庭を囲むように赤い石州瓦の屋根が続く佇まいは、窯元というよりも、中国や韓国の歴史映画に出てくるお屋敷のよう。車を降りて、まずは深呼吸。

 「空気がおいしいでしょう? これを求めてみんなここへやって来ます」と、迎えてくれたのは、山本教行さん。岩井窯は、16歳にして吉田璋也の民藝活動に感銘を受け、さらに当時日本で活動していたイギリス人陶芸家バーナード・リーチの影響を強く受けた山本さんが、1971年に土地を開墾し開いた窯元だ。

 山本さんの仕事は、ただ器を作るだけにとどまらない。ライフワークは、暮らしの中の美しさを発信すること。

 敷地内には、自身やお弟子さん、ともに作陶する娘さんの夫の洋さんの作品を展示する作品展示館や、古今東西の手工芸品コレクションを展示する「参考館」、カフェや食事処もある。時間をかけてゆったりと手仕事を堪能できる場所だ。

 「喫茶 HANA」でいただいたランチ(11:00~15:00)に使われていたのは、岩井窯の定番でもある土鍋。

 今では貴重な伊賀の天然土だけを使って作った土鍋シリーズは、両手付、片手、エッグベーカーにミルク沸かしピッチャーなどバリエーション多数。ものによっては焼き上がりを何年も待つ人がいるほどの人気ぶりだ。

 ここでは、手仕事によって生活が豊かに、そして暮らしやすくなることを、身をもって体験できる。食後のコーヒーをいただいているとき、ふと気づいたのが、器の持ちやすさ。

 そういえば、さっき使っていたスプーンも箸もとても使いやすかったな……と、後になって気づくほど自然に手に馴染むカトラリーは、山本さんがアイデアを出し、若手作家たちが制作したもの。

 作品展示館では、土鍋を始めとする作品を展示・販売している。現代の暮らしと相性がよさそうな器を手にするたび、何を盛ろうかと想像が広がる。

 「器は使われるために生まれてきたもの。料理を盛って初めて本来の力を発揮するんです」。そんな山本さんの言葉に、選んだ器を使う日が断然、楽しみになった。

クラフト館 岩井窯

所在地 鳥取県岩美郡岩美町宇治134-1
電話番号 0857-73-0339
営業時間 10:00〜16:00
定休日 月・火曜(祝祭日は開館。臨時休業あり)
http://www.iwaigama.com

2020.11.22(日)
文=芹澤和美
撮影=山田真実