「民藝」という言葉を生んだ 約100年前のあるムーブメントとは?

 ステイホームやテレワークの習慣により、家で過ごす時間がすっかり長くなった。しだいに存在が気になり始めたのが、日用品だ。

 デスクの傍らにある美しいコーヒーカップや、テイクアウトした料理をより華やかに見せてくれるお皿を使うたび、幸せな時間だな、と実感する。

 そんな想いを声高らかに叫び、一大旋風を巻き起こした画期的なムーブメントが今から約100年も前にあった。大正末期から昭和初期、思想家の柳 宗悦(やなぎ むねよし)らが起こした「民藝運動」だ。

 それまでは芸術的価値がないとされてきた庶民の生活道具の中に美を見い出そうという斬新な発想は、強烈なインパクトを世の中に与えたという。

  「民藝」という言葉は、このときに創作された「民衆的工藝」の略語で、「実用的でありながら、心が豊かになる美しさを兼ね備えた工芸」という意味が込められている。

 なんとなく、地方のお土産物屋さんに売っているほっこりとした雑貨という印象もあるけれど、実はひとつの美意識なのだ。ちなみに、柳 宗悦は、キッチンツールなどのデザインで知られるインダストリアル・デザイナー 柳 宗理(やなぎ むねみち)のお父さんである。

 この一大ムーブメントの中心にいたのが、鳥取の医師・吉田璋也(1898~1972年)。柳 宗悦とともに民藝運動に参加し、耳鼻咽喉科医として働きながら「美しい暮らしの道具作り」に生涯を捧げた民藝プロデューサーだ。

 伝統に縛られず、時代のライフスタイルに合うデザインを職人に指導し、流通や販売に至る仕組みまでを作りあげた先駆的なアイデアと情熱は、今も鳥取に息づいている。

 職人たちがモノ作りの参考にできるようにと、吉田璋也が開設したのが、鳥取市の中心部にある「鳥取民藝美術館」だ。ちなみに、羽田空港から鳥取砂丘コナン空港までわずか約75分、そこから市内まで車で約15分。

 淡い光が優しく差し込む土蔵造りの館内に展示されているのは、日本国内外から集められた美しい生活道具。絶妙な婉曲を描く椅子や、使いやすいよう細部に工夫がこらされた美しいランプシェード。

 使う人のことを思って作られた道具や家具は、簡素なのに凛としていて、清々しささえ感じるほど。

 民藝とは使ってこそ美しい道具。その意味を知ってからここを訪ねると、面白さはぐっと増す。暮らしの美を見つける楽しさに開眼しそうだ。

鳥取民藝美術館・鳥取たくみ工芸店

所在地 鳥取県鳥取市栄町651
電話番号 0857-26-2367(共通)
営業時間 10:00~17:00(鳥取たくみ工芸店は~18:00)
定休日 水曜(祝日の場合は翌日休)、年末年始
https://mingei.exblog.jp/


たくみ割烹店

所在地 鳥取県鳥取市栄町652
電話番号 0857-26-6355
営業時間 11:30~14:30(L.O 14:00)/17:00~22:00(L.O 21:00)
定休日 第3月曜(8・12月は営業)

2020.11.22(日)
文=芹澤和美
撮影=山田真実