四季おりおりの自然が育む唯一無二の器
![自然の中で、美しく使いやすい器が生まれる。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/f/d/-/img_fd8c25a5f8722f0048ac75497a6342bb71269.jpg)
民藝品が追及する「美」とは、ずばり、見た目だけでなく実際の使いやすさも兼ね備えていること。だから、使い手のことがよく考えられている。そのことを実感するのが、窯元を訪れたときだ。
「延興寺窯(えんごうじがま)」は、市街地から車で30分ほどの岩美町にある。器作りにいそしむのは、窯主の山下清志さんと、沖縄の読谷山焼北窯で修業を経験した娘の裕代さん。
![釉薬は近くの河原にある黒石や籾殻の灰から手作り。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/b/7/-/img_b7a3b2092e1f392e2818d43766cad59a133635.jpg)
工房でカラカラと音を立てているのは、釉薬(陶磁器の表面を覆ううわぐすり)の材料となる籾殻の灰をすり潰すポットミル。この窯では、土はもちろん、釉薬も地元の素材から手作りしている。
![清志さん曰く、地元の土と地元の素材で作った釉薬はマッチするという。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/4/8/-/img_48dd531897e3f1b43128143275cfa66c82164.jpg)
「この地層は1,600万年前のものだそうです」と、清志さんが土を見せてくれた。
山から土を掘り出し、完全に乾燥させてから、水につけて不純物を取り除き、ふたたび天日で乾かし、やっと陶器の材料として使えるようになる。考えただけでも、とてつもなく長い時間!
![1978年、よい陶土が採れるこの地に開窯。父と娘で製作に励む。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/f/0/-/img_f091b52654dff4d38512c5506401bdb2176598.jpg)
あらゆるものがオンラインや電話1本で手に入る時代、あえて手製にこだわるのは、「機械的に作られたものではなく、昔の焼き物に近いものを作りたいから」と話す清志さん。
その器を手に取ると、見た目はシンプルなのに、手触りは温かく柔らか。リビングやデスクで、手元に置いておきたくなる。
![登り窯で焼かれる器は、上品かつ日常使いできるものばかり。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/a/4/-/img_a4c02191ffd5e65498b14bb50d74406f169983.jpg)
傍らにある昔ながらの登り窯も現役だ。昨今、焼き物の多くは微調整のしやすさやコストの点から、電気窯やガス窯で焼かれるのがほとんど。
「火を燃やす薪も手に入りにくいんだけれど」と清志さんが苦笑しながら、「それでも、この窯で焼くと仕上がりが違う、表情がいいんです」と教えてくれた。
![「自然があってこその器作り。季節の変化を日々感じています」と清志さん。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/3/e/-/img_3ef8c794b79f5260f259ef22baf3ebb775574.jpg)
目の前は、田んぼと山。「冬は一面の雪景色ですよ。四季折々の表情があります」と話す清志さん作陶の器とともに、豊かなこの風景も持ち帰れそうだ。
延興寺窯
所在地 鳥取県岩美郡岩美町延興寺525-4
電話番号 0857-73-1219
営業時間 10:00~17:00(訪問の際は要電話連絡)
定休日 不定休
2020.11.22(日)
文=芹澤和美
撮影=山田真実