何か月も探して見つけた 物語の鍵となる「家」

――堤監督が本作で行われた演出で興味深かったのが、太陽のカットが要所要所で入り込む演出と、画面に向かって強い光が射すレンズフレアです。これらの狙いを教えてください。

 『悼む人』『人魚の眠る家』でもご一緒した撮影の相馬大輔さんが、古いレンズを使う方で、ちょっと写真家のようなタイプなんです。

 光が乱反射するカットなどは、彼の個性が生きていますね。脚本を読んだうえで提案してくれました。

 太陽のカットについては、暗くて追い詰められる“不幸テーマ”であるが故に、美しく見える風景が胸を締め付けるような効果を持つことを示したかったんです。

――4人が暮らす家も、もうひとりの主人公と言えるほど重要な存在ですよね。

 この家を見つけるまでに、何か月もかかりました。本作の裏テーマは、一登(堤真一)が建築家として名を挙げること、だと思うんです。

 そのために、建築事務所の隣に細部までこだわったモデルルーム的な家を作って、本人は満足しているけど家族はどうなのか? 彼らの気持ちの“影”が、家の中に落とされていくさまを描きたいと思いました。

 子どもたちが自分の部屋に行くには必ずリビングを通らなければならず、両親と顔を合わせなければならない。

 それがコミュニケーションの契機になるから良いことだ、とはよく言いますが、子どもだってそれぞれの社会を背負って、家に帰ってくるわけです。

 強制されたら、僕だったら嫌になって駅にたむろしちゃいますね(笑)。

――(笑)。堤監督の作品には、カメラワークやカット割りなどシリアスな中にも遊びがありますが、どういった部分からインスパイアされているのでしょう?

 難しいですね……。というのも、作品ごとに撮り方を変えようと思っているんです。困ったときに『シャイニング』を観る、みたいなものはありますが(笑)。

 フランスの映画監督ルイ・マルは、『死刑台のエレベーター』というサスペンスと『地下鉄のザジ』というコメディを同時期に撮っていて、そういう多種多様な作品を撮ることができるスタイルに憧れます。

 とはいえ僕の場合はやっぱり商業監督で芸術家ではないので、その作品に求められるその時々の全力を尽くすことを大切にしていますね。

2020.10.13(火)
文=SYO
撮影=鈴木七絵
スタイリング=関恵美子