新型コロナの影響で編集作業はリモートに

――ありがとうございます。ちなみに本作は、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言、それに伴う外出自粛によって、編集作業はリモートで行われたそうですね。

 洲﨑千恵子さんという天才的な編集技師とディスタンスをとりながら、何度も何度も映像を作っては壊し、作っては壊しを行いました。それが納得いく作品作りの基礎となったのは、事実です。

 新型コロナによって、撮る予定だった作品が何本も飛んだり来年にずれ込んだりして大打撃を受けたのですが、『望み』という作品単体にとっては、じっくり向き合う時間が取れたのは良かったと思っています。

――堤監督にとっても、新型コロナは甚大な影響を及ぼしたのですね……。

 いま現在も、状況自体はそれほど変わっていないですしね。

 映画館に行くか行かないかが問われる時代が来るとは、想定外でした。常識だと思っていた行動様式が、疫病によってできること/できないことに変えられていく――そういう強制力が働くし、周りの目も気になってしまいますよね。フラストレーションがどんどんたまっていく。

 家族と向き合う時間が増えたのは良いことですが、家族といえど「他人」ですから、ストレスを醸し出すこともままある。

 そうすると、この『望み』が持つテーマも、作った本人でありながら深く染み入るところもあって……。

 望む・望まざるにかかわらず、時代に沿った映画になったという、運命の不思議さを感じます。

――今回の『望み』もそうですが、監督の近年の作品は、人間の二面性が1つのテーマになっている気がします。

 「人間の心をテーマにする」ことにシフトしなくてはならないとは、思っていますね。人生であと何本映画を作ることができるかわからないし、日本人監督でしか描けない、日本人の映画は今後もずっと撮っていきたい。

 さらに許していただけるなら、日本における社会的・歴史的な不条理を扱った作品を描きたいと思っています。

――具体的には、どういった内容でしょう?

 差別とか格差、あるいは外国との向き合い方――ノモンハン事件や、1970年代に起こった差別事件など、いくつかあります。

 僕がそういうことを描くのは不遜だと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、これをやらないとちょっと死ねない、という思いはありますね。

堤幸彦(つつみ ゆきひこ)

1955年、三重県生まれ。演出家、映画監督として「金田一少年の事件簿」「ケイゾク」「TRICK」「SPEC」シリーズなど大ヒットドラマや映画を多数輩出。近年の監督作品に『イニシエーション・ラブ』(15)、『人魚の眠る家』(18)、『十二人の死にたい子どもたち』(19)などがある。

『望み』

読者満足度100%!(ブクログ調べ)
衝撃と感動のベストセラーを  堤真一×石田ゆり子×堤幸彦監督で遂に映画化! 
愛する息子は、殺人犯か、被害者か。それとも──。  父、母、妹──それぞれの〈望み〉が交錯する中、  家族がたどり着いた〈3つ目〉の答えとは?  ラストの〈光〉に魂が慟哭する感動のサスペンス・エンタテインメント。
2020年10月9日(金)公開
https://nozomi-movie.jp/

2020.10.13(火)
文=SYO
撮影=鈴木七絵
スタイリング=関恵美子