“密”を極めたオープニングにも感動

 そして、それがコロナ禍で劇場から離れていたがゆえに我々が忘れていた破格の“映画感”みたいなものを映画館で味わう歓びを思い起こさせてくれた気がする。

 今回の作品にあたって「世界中の観客を行ったことのない場所へ連れて行きたいという気持ちが強くなってきていた」「映画に何ができて、どこへ連れて行ってくれるか、その可能性を信じてもらいたい」とも語っているノーラン。その言葉は時間逆行の世界に観る者を誘うことだけを指しているのではないと強く感じたし、そこにグッときた。

『TENET テネット』 9月18日(金)全国ロードショー © 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved
『TENET テネット』 9月18日(金)全国ロードショー © 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

 ロケーション撮影が敢行された、インドのムンバイ、イタリアのアマルフィ海岸、イギリスのサウサンプトンにロンドンといった国々と場所は、もはやコロナ禍においては時間逆行の世界と並ぶ“行ったことのない場所”になりつつあるかもしれないからだ。

 また、オペラハウスで3000名以上の観客が催眠ガスを送り込まれて眠り込んでしまう“密”を極めたオープニングは、現在では撮ることが不可能だと思うと同時に「そうそう、こんなことができた世界があったんだよ!」とどこか異世界を見せられているような妙な興奮を覚えた。

『TENET テネット』 9月18日(金)全国ロードショー © 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved
『TENET テネット』 9月18日(金)全国ロードショー © 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

 いずれにせよ、現実にあるかのような虚構の世界、虚構になりつつある現実の世界にドップリ浸かれることは確か。そして、頭で考えずに観たところでニールの素性などを筆頭に疑問は山積みになるし、それを誰かと顔を突き合わせて話したくなるし、もう一度劇場に足を運んで答え合わせをしたくなるのも確か。

 そんな映画体験が当たり前のようにあったコロナ前に『TENET テネット』が逆行させてくれたような気がする。

INFORMATION

『TENET テネット』
9月18日(金)全国ロードショー
© 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

監督・脚本・製作:クリストファー・ノーラン
製作:エマ・トーマス 製作総指揮:トーマス・ヘイスリップ
出演:ジョン・デイビッド・ワシントン、ロバート・パティンソン、エリザベス・デビッキ、ディンプル・カパディア、アーロン・テイラー=ジョンソン、クレマンス・ポエジー、マイケル・ケイン、ケネス・ブラナー
配給:ワーナー・ブラザース映画

オフィシャルサイト:http://tenet-movie.jp
オフィシャルTwitter:https://twitter.com/TENETJP #TENETテネット

2020.10.12(月)
文=平田 裕介