韓国のポン・ジュノによる
『パラサイト』が最高賞

 Bienvenue à Cannes !  ようこそ、カンヌへ。今年はフランス語で書いてみた。

 とはいえ、実はもう私マダムアヤコは映画祭トラベラーとしての次の地、韓国のプチョンにいるんだが。レポートがすっかり遅くなって、すみません。

 今年で72回目となるカンヌ国際映画祭は、2019年5月14日~25日まで開催された。

 最高賞パルムドールは、韓国のポン・ジュノ監督作品『PARASITE(パラサイト)』(英題)だった。

 今年は日本作品がコンペティションに入らなかったせいか、あまり日本ではカンヌについて話題になっていないようだけど、これは快挙。

 なにせ韓国映画としては初のパルムドールで、なおかつ韓国映画誕生100年という記念の年に受賞したということで、韓国では非常な盛り上がりで、作品も大ヒットしている。

 もちろん、カンヌでもとても盛り上がった。公式上映のソワレにも私は運良く参加していたのだけれど、スタンディング・オベーションも7、8分続き、ポン・ジュノが「ありがとう。夜も遅いので、帰りましょう」と呼びかけたほど。

 家族全員失業中の一家が、IT企業社長一家に、家庭教師をきっかけに寄生していくという『パラサイト』は笑わせて、泣かせて、ドッキリさせてという、めちゃくちゃ面白い映画で、ソン・ガンホとイ・ソンギュンらの演技も抜群。

 これは傑作だ、パルムをあげたい、とマダムアヤコも思ったものの、次点のグランプリか監督賞の受賞になっちゃうかな、と感じなくもなかった。

 というのも、昨年の是枝裕和監督の『万引き家族』に続いてアジア映画が2年連続で最高賞というのは難しいかもな、なんてそんな余計なことを考えてしまったのだ。我々プレスの悪いところだが、私だけではなく、そういう声が周囲でも聞かれた。

 しかし、『レヴェナント:蘇りし者』の監督で今年の審査委員長アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥらは、そんなジンクス的なことに囚われなかった。

昨年に続きアジア作品が
パルムドールを獲った理由とは

 実際、カンヌ史上、ヨーロッパ、アメリカ以外の地域が最高賞を連続受賞するということは過去になかったのだが、これは、かつてはアジアやアフリカなどからの出品が少なかったから、ということも大きい。

 1970年代までは、アジアからは日本とインドくらいしかほぼコンペへの出品自体もなかった。世界中どこへでも行けるような我々の時代とは違い、フランスとアジアは遠く離れていたし、紛争中の地域も多く、映画祭に出品する余裕などなかったのだ。

 まあ、その頃に日仏合作で『愛の亡霊』('78)を作って、第31回の監督賞を受賞した大島渚はすごいな、とも思うし、『戦場のメリークリスマス』('83)はなんで無冠に終わったのか、という話もいつかはしたいが、それはさておき。

『パラサイト』ほど
完成度の高いものは
そうそうない

   ポン・ジュノ監督の『パラサイト』は、今年のカンヌで批評、人気とも抜群の受けだった。

 格差社会の中で見えない、いないことにされている人々、という題材は『万引き家族』や、昨年の審査員賞受賞作『存在のない子供たち』(原題『カペナウム』)をはじめ、近年多くの作品が扱っているし、世界のどの地域でも深刻度を増している問題なのだが、『パラサイト』はそこにブラック・コメディのフォーマットを使って切り込んだ、というのがとても新鮮だった。

 正確に言えば、貧富の差を風刺した映画は沢山あるが、『パラサイト』ほど完成度の高いものはそうそうお目にかかれない。

 審査員のイニャリトゥは受賞の理由として「シリアスな問題をユーモラスかつ思いやりと共に描き、善悪を決めない。ローカルな映画でありながら、非常に国際的であり、“映画とは何か”という本質が理解されている」とし、満場一致での受賞と絶賛した。

 「我々は誰が撮ったのかということは考えず、審査した」ともイニャリトゥは語ったが、そこに批評家は囚われ過ぎちゃうんだよね。反省。

 ネタバレしないでほしい、とポン・ジュノ直々のお願いがあったので詳細は伏せるけれども、単なる寄生の話ではなく、途中から引っ繰り返るような展開になる。

 カンヌで手を叩いて爆笑しちゃったもん。まあ、マダムの場合、しょっちゅう爆笑しているんだけどさ。よくぞこんな仕掛けを考えついたなと思うし、「におい」を格差の象徴に持ってきたのも、舞台となる豪邸がすべてセットだというのも驚いた。

 ちなみに、ポン・ジュノに取材もしたのだが、この映画を撮る前にキム・ギヨンの名作『下女』('60)を何度も見直したそう。これは貧しい女性が中流家庭に入り込むスリラーであり、「家」がやはり大きな意味を持っていた。

2019.08.02(金)
文・撮影=石津文子