『ダークナイト』(08)や『インセプション』(10)、『インターステラー』(14)などで知られるクリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET テネット』が大ヒットである。
9月18日に公開され、日本では9月27日の時点で累計興収12億円超、観客動員数は約74万人超を記録、アメリカでは4週連続No.1、全世界興収は290億円を突破と、公開からわずか10日あまりでエライことになっている。
とにかく難解と囁かれているにもかかわらず大ヒットしているのはなぜなのか、何回も観に行きたくなるという声が聞こえるのはなぜなのか?
※以下の記事では、現在公開中の映画『TENET テネット』の内容が述べられていますのでご注意ください。
「ナンジャラホイ」と言った中年男性の顔は興奮していた
それを確かめようと向かったのは、新宿・歌舞伎町のシネコン。時勢柄、407ある座席は1席ずつ間隔を空けられてはいるがすべてが埋まっている状態で、たしかにヒットしているのは間違いない。
そして上映終了後、観客の中年男性が妻らしき女性に「ナンジャラホイって感じだな」と話していたことから難解だったのも間違いない。でも、その顔には後悔の表情が浮かんでいるわけではなく、怒気も帯びていない。なにやら興奮に包まれているような表情で、とにかく満足しているのがありありとわかった。
自分も「ちょっと何言ってるか分からない」「ちょっと何観てるか分からない」の連続であったが、結局は「ちょっと何と言っていいのか分からない」ほどの興奮状態に陥ってしまった。
スパイが盗んだプルトニウムをウクライナのオペラハウスから回収する作戦に参加するも、謎の集団に囚われて拷問を受けるCIA工作員の名もなき男(ジョン・デイビッド・ワシントン)。なにも語らずに自決用カプセルを飲み込むが、死なずに意識を取り戻す。カプセルは鎮痛剤で、拷問はある任務に適任な人物であるかを測るテストだった。
その任務とは、時間を逆行して世界を壊滅させようとする未来からの脅威を食い止めるというもの。脅威につながる手掛かりのひとつとして、未来から送られてきた“逆行する弾丸”の出所をパートナーのニール(ロバート・パティンソン)と追ううち、ロシアの武器商人セイター(ケネス・ブラナー)と対峙することに……。
……と、自分で書いていてもナンジャラホイなストーリーである。たしかに鍵となる時間逆行というのが、パッと理解できないかもしれない。エントロピーの増減やら陽電子なんて言葉を使った説明も出てくるが、かえってわからなくなるばかり。だが、ノーランは「なんで何言ってっかわかんねえんだよ」「なんで何観てっかわかんねえんだよ」と観客に無理強いすることは決してしない。
2020.10.12(月)
文=平田 裕介