ヒットの理由1:物語に入り込むのを助ける、2つの仕掛け
拳銃のひきがねを引くと的にめり込んでいた弾丸が銃口めがけて戻ってくる逆行弾の射撃シーンを用意し、通常の時間の流れ=順行とは違う逆行がどんなものかをひとまず見せる。この短くも鮮烈な場面で名もなき男と一緒に「え?」と驚くと同時に心を掴まれ、なんとなく「そういうことか」と受け入れ、そのまま物語に入り込めるのだ。
そのうえ、未来からの移送物を研究する科学者が「頭で考えないで、感じて」と、名もなき男にとっては任務を遂行するうえで、観客にとっては鑑賞するうえでのアドバイスになる言葉までかけてくれる。
また、名もなき男も観客も“なにも知らない”“なにもわからない”状態から物語がスタートするのもミソ。自決カプセルを飲んで死んだつもりが目を覚まし、起き抜けにとてつもないミッションを下され、次から次へと謎に向き合うことになる名もなき男と観客の感覚がこれによって同期し、物語を体感的に追うことができる。
そして、驚異的な時間逆行描写とアクションを繰り出して余計なことを考える暇を与えないようにするのだ。
2020.10.12(月)
文=平田 裕介