郷土パスタの数だけ パスタ道具があるのです!

#7 手打ちパスタ用道具

 イタリアのおばあちゃんは、今でも家族が集まる大切な日にはパスタを手で打ちます。

 各地方ごとに様々なパスタがあり、その道具も多様。

 タリアテッレからラザニアまでパスタの幅を変えられる道具や、ラビオリ用の色々な形の型、ニョッキ板など、様々なパスタ道具があり見ているだけでも楽しくなります。

 なかでも特に珍しいものを、3つご紹介。

◆コルツェッティ

 コルツェッティは平べったい円形のパスタ。フランスまで続く海沿いの細長い州、リグーリアのユニークな郷土パスタです。

 生地を丸い型でくり抜き、ソースを絡ませるためにこの木製のスタンプで模様をつけます。

 実はこの模様、昔は多くの貴族たちが家紋を掘っていました。

 婚礼の際には、両家の家紋が入ったコルツェッティが振舞われていたそうです。

 今では、この木型の模様を掘る職人が数名しか残っておらず、イタリアでも手彫りの美しい型を見つけるのは至難の業となってしまいました。

◆パッサテッリ

 エミリア・ロマーニャ州、マルケ州発祥のパスタ。

 小麦粉は使わずにパン粉とパルミジャーノ・レッジャーノチーズをこねて作る生地にこの道具を上から押し当てると、穴からウニョウニョと生地が出現。それがパスタになります。

 奇妙な形のパスタですが、復活祭やクリスマスなどの特別な日にスープに入れていただきます。

 留学した最初の年に、ボローニャの道具屋さんで見つけた、思い入れのある道具のひとつです。

◆キタッラ

 アブルッツォ州の郷土パスタ。木枠の中に弦が張ってあることから、キタッラ(ギター)と名付けられたそうです。

 弦の上にパスタの生地を置き、麺棒で押すと、下に弦で切れたパスタが落ちるという仕組み。

 パスタにはスパゲッティなど、断面が丸いものが多いですが、キタッラは断面が四角いのが特徴。ラグーなど濃厚なソースとよく合います。

 アブルッツォ州の友人の家に行った時、友人のマンマが長年愛用しているこの道具で、キタッラを作ってくれたのを今でも覚えています。

 この地方ならではのパスタなので、キタッラの道具が家にあったことにとても感動したことを覚えています。

 イタリアでも、今は働き方が変わり、家庭でパスタを打つ人が減ってきているそうです。パスタの道具も稀少なものとなりつつあります。

 道具に触れ、そこに秘められた様々なストーリーを知ることも、料理を楽しむひとつの要素だと私は思っています。

 イタリア食文化の多様さを物語る道具たちとの出会いをこれからも大切にしていきたいと思います。

齊藤奈津子(さいとう なつこ)

イタリア料理研究家。TVディレクターとして様々なジャンルのテレビ番組を制作するうちにイタリア料理の素晴らしさに目覚め、2009年、イタリア料理研究家1級を取得し、翌年イタリアのフィレンツェへ料理留学。帰国後、イタリア各州の郷土料理を紹介する「イタリア家庭料理教室180℃」を開業。イタリアの食文化、そしてチョコレートを広める活動を続けている。インスタ:@natsukosaito0104

Column

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2020.07.25(土)
文=齊藤奈津子
撮影=佐藤 亘