「不良」文化に生きる若者たちのあいだで根強いアユ人気

 今回のドラマが始まる前から、浜崎あゆみを嘲笑の的にする向きもあった。全盛期を過ぎたのに、いつまでもステージに立ちつづけている、と揶揄する声も珍しくない。

 長いキャリアに関しては、小説版『M』冒頭でも触れられている。デビュー20周年を迎えた2018年ごろ、恋人から盟友となったマサがこう語りかけるのだ。

 「自らの美学を貫き、この世界を去っていくアーティストもいるよ。でも、あゆはそうしない。ステージに立ち続ける。年齢なんかに捉われない」浜崎も同意する。「今の自分だからできること、絶対にあるから」「これからも、ステージに立っていたい」

 余談だが、少年院出身アイドル戦慄かなのによると、「不良」文化に生きる若者たちのあいだで浜崎人気はいまだ高く、少年院では彼女の曲が流れただけで泣きだす子も多かったという。

 戦慄が生まれたのは1998年。『M』でちょうど描かれる、浜崎あゆみ歌手デビューの年だ。平成の全盛期を体験していない世代にまで、彼女が歌う愛や孤独は聴き継がれている。

 「M 愛すべき人がいて」は、アユとマサが作り上げた「浜崎あゆみ」というスター像が巨大化していき、いつしかふたりの手に負えぬ怪物になってしまう物語だ。では、そのあとはどうなったのか。

 幸い、ドラマ版はAbemaTVにて全話無料で見られる。エネルギッシュな映像劇を楽しんだあとは、浜崎の歌声に聴き入って、ステージに立ち続けるアーティストの肖像、その信念を追ってみるのもいいかもしれない。

辰巳JUNK(たつみじゃんく)

ライター。平成生まれ。セレブリティや音楽、映画、ドラマなど、アメリカのポップカルチャー情報をwebメディア等に寄稿。
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※こちらの記事は、2020年6月13日(土)に公開されたものです。

記事提供:文春オンライン

2020.07.04(土)
文=辰巳JUNK