「とにかく足りないんです……」防護服を作り始めたきっかけ
「とにかく防護服などの医療物資が足りなくて現場が逼迫しているというんです。すぐに病院に向かい、感染制御部から現場のニーズを聞いて、その日のうちに私がミシンをかけてプロトタイプをつくりました」(辰野)
もっとも気を遣ったのは汚染された使用済みの防護服をどう脱ぐか。辰野は布を背中で重ね合わせ、たすき掛けにした紐を前で結ぶデザインを考案した。登山で縁のあるチベットやモンゴルの民族衣装からヒントを得たという。
続けて、山用のゴーグルを製造している台湾の協力工場にフェイスシールドの製作を依頼する。
「ゴーグルをつくる工場だから、フェイスシールドも技術的には難しくないんです。息で曇らないように曇り止め加工も施しているから、使いやすいと思いますよ」
「中国の工場に6万着を発注しました」
これらのアイテムはすでに、コロナ感染者を受け入れている医療機関への配布が始まっている。フェイスシールドのいくつかは、現在も営業している一部のモンベル直営店に送られ、接客スタッフが使用する。
現場からの反響はどうなのだろうか。
「医療現場からは感謝の声をたくさんいただいています。直接、お礼状やメールなどを送ってくださる方もいれば、僕のSNSにコメントをくださる関係者もいてね。つくってよかったと思っています。そんななか、新たなニーズも見えてきたんですよ」
新たなニーズとは?
「当初、タイベック素材の防護服は消毒滅菌して数回使用することを想定していたんだけれど、そうした処理設備を備えていない病院もあるらしくて。そうか、使い捨て防護服のニーズが大きいんだと。急遽、中国の工場に別素材で6万着を発注しました。今度の素材はもともと医療用として使われていた撥水性、通気性のある不織布。デザインはタイベック版とは違ってしまうんだけれどね」
2020.05.23(土)
文=千葉 弓子