刻一刻と状況が変化するコロナ禍では、平時では見えにくいさまざまなものごとが浮き彫りになってくる。企業姿勢もそのひとつだ。
2020年4月、アウトドアメーカー・モンベルは医療機関に無償提供するための防護服とフェイスシールド、一般販売向けの布マスクの製造を開始した。その迅速な行動の裏には、会長・辰野勇が長年の山岳経験と企業経営で磨いてきた勘と判断力があった。
まず寝袋カバー用にストックしていた米国デュポン社の高密度ポリエチレン不織布「タイベック」を使って600着、さらには急ぎで集めた建築資材用の「タイベック」を使って1,700着、計2,300着の防護服製造を国内工場でスタート。続いて、台湾の協力工場にフェイスシールド3万個を発注した。
また、Tシャツなどに用いる速乾性機能素材「ウイックロン」を使った布マスクを国内工場で9万枚縫製した。
5月初旬、これらの初回生産分が完成し、大阪本社に届いた。
社会のニーズを敏感に汲み取り、わずか1カ月の間に自社の既存製品ではない3つのアイテムを製作したモンベル。なぜここまで柔軟な対応ができたのか。
同社が医療用品を手がけるのは、もちろん初めてのことだ。きっかけは辰野が通院していた大阪・住友病院の前院長・松澤佑次医師から寄せられた切実な声だった。
2020.05.23(土)
文=千葉 弓子