補償部分は、実は後手?

 これまでのコロナ対策を振り返って感じるのが、政府の政策は、感染のスピードを超えるべく、先手先手で進められていくが、その内容は必ずしも詰められたものではなく、見切り発車的な面も少なくないこと。

 命を守るためのスピーディーな対策を最優先し、小さな問題は発生してから、その都度、即時解決していくのが台湾流。金銭的な特別な補償は、かなり放置されてきた印象だ。

 例えば、3月19日(木)から事実上の鎖国をしたことで、観光業界は大打撃を受けている

 2月25日(火)に財政援助を行う振興条例が成立し、3月13日(金)に600億元 (約2200億円)の予算案が可決されているので、時系列的には、鎖国前の段階で、何らかの補償があるとは理解しつつも、具体的な条件や金額については先送りされていた。それらが明らかになったのは、そのひと月後の4月22日(水)、可決したのは前日である。

 内容的には、低収入または児童・高齢者・身障者を持つ家庭 (約5,400円×世帯人数分×3カ月分)、タクシー運転手や観光バスの運転手 (約3万6,000円×3カ月分)、水道や電気工事・建築業などの自営業者 (約10万8,000円×1回)、飲食業、製造業、観光・文化事業企業の従業員には、月給の4割×3カ月分が支給されるとのこと。

 しかし先行しているヨーロッパに比べると、決して手厚いとはいえない。台湾の物価は実は日本人が思うより、随分高い。

 これらの特別な補償の決定までの間は、通常の失業手当などの社会保障でカバーしてきたようだが、政策の素早さとは対照的な補償内容の発表の遅さに関して、ネット上で炎上したり、抗議デモや座り込みが行われたり……ということがないのは不思議といえば不思議である。

 かつての定例会見で陳時中指揮官が「経済よりも防疫を優先する」と言い切ったことがあるが、少々乱暴な分析をするならば、台湾の人々はSARSの経験から“防疫が第一、優先すべきは命”といった思いがあり、辛抱強く待つことができるのかもしれない。

 もちろん、市民生活はほぼ平常運行で、ロックダウンしているわけではないからということもある。

 また、現政権に関していえば、国民との間に絶大な信頼関係があるのも大きい。予算が可決して詳細が決まった事案の一部については、即日、該当者に振込がなされるなど“取りかかれば早い”のも、現台湾政府の特徴である。

2020.05.13(水)
文・撮影=堀 由美子