防疫の要は、圧倒的なスピード感
コロナ禍における政府の対策で、私が最も驚いたのは、ターゲットの位置情報の把握力と情報開示の手法である。
それは2月7日(金)、ダイヤモンド・プリンセス号が台湾の基隆に寄港し、感染の疑いがある乗客らが立ち寄った場所を知らせるSMSのアラートが届いたときだ。
そこに貼り付けてあるアドレスに飛ぶと、彼らが立ち寄った地点の時間つき一覧、ポイントをつけた地図を見ることができ、彼らと接触した可能性を知ることができる仕組みだった。
その後も、友だち登録している衛生署のLINEから、感染者の行動を分単位で記した通知が届くこともあった。そのなかには1時間違っていたら、同じ列車に乗り合わせていたかも……という履歴があり、正確な利用時間まで明らかになっているのは、とても有意義だと感じた。
最も多くのアラートが発信されたのは、前日に海軍の実習艦隊から3人の感染者が発覚した4月18日(土)。パラオから台湾に帰還した実習生が上陸後に症状を訴え、検査の結果、感染が発覚。約700人に及ぶ関係者が隔離された……という“事件”だ。
すぐさま感染者が立ち寄った場所が公開されたのだが、15分以上利用した飲食店などの施設、滞在時間帯はもちろん、なんと恋人とラブホテルで休憩したことまで晒されることとなった。
この点については物議を醸したが、私が驚いたのは、これらの立ち寄り地点に居合わせた可能性のある、総勢21万人に、自主健康管理を促すアラートが届いた……という点である。
私の周囲にも受信した人が少なくなく、会社からリモートワークを求められたり、学校から調査票の記入が求められたり、塾を休まなければならない子どもが出てきたり……と、かなりの騒動となった。
ちなみに、ビッグデータを防疫に活用したのは、今回が初めてだという。台湾の国民の位置管理システムはどこまで進化するのか。国民にとって有用であることを願いたい。
ドラマさながらの監視システム?
前述したように、徹底した水際対策、なかでも危険国からの入境者の健康管理が感染拡大を防いできたことは疑いようがなく、そこにも国民の位置管理システムが働いている。
その手法が甘いというレポートもあるにはあるが、海外からの入境者はもれなく空港で検査を行い、渡航歴に応じて、自宅での健康管理、自宅やホテル等での待機、自宅または指定施設での隔離で、健康状態を徹底管理する。
この際、健康状態の変化や在宅確認は、町内会長や専門スタッフが担当するのだが、そうした隙を見て外に出ようものなら、携帯電話にアラートが表示され、即刻戻るよう命じられるほか、場合によっては警察が飛んでくる。
待機&隔離期間中は、気分転換を促すお菓子などの食品が入った支援物資が届けられたり、1日につき1,000元(約3,600円)の手当が出たり……で、そのケアはなかなか手厚いのだが、“ちょっとそこまで”と買い物に出かけてしまう人、あるいは本格的に脱走してしまう人は、この国においても、やはり一定数、出てきてしまう。
これまでの脱走者の行き先は、デパート、ネットカフェ、ナイトクラブなどとされている。
しかし、台湾警察の位置管理システムはSF映画レベルであるため、逃げおおせるのは、まず無理だと思っていい。
ここ台湾には、人気ドラマ「絶対零度〜未然犯罪潜入捜査」並みの監視システムが整っていると私は推測している。また、脱走に科される罰金も、かなり高額である(最高100万元、約360万円)。
2020.05.13(水)
文・撮影=堀 由美子