あえて“わかりやすさを求めない”「10の秘密」
火曜のカンテレ制作の過去作には、「僕のヤバイ妻」(火曜10時枠時代)という夫婦だましあい、殺しあうドラマなどシンプルで愉快なエンタメもある。いまの時代にはそういった、「シンプル」な作品が受け入れられやすいのではないだろうか。
しかし、「10の秘密」のように人間のいろいろな事情や感情が入り組んだ、イヤミスの風情もあるドラマが好きだという視聴者もいるはずだ。「なんでもかんでもわかりやすさを求めてもつまらない」と、逆張りするカンテレのチャレンジ性も悪くはない。
ただ『10の秘密』は登場人物それぞれの「秘密」をテーマにして、毎回誰かの「秘密」が明かされるコンセプトに追われ、ついつい彼らの事情を説明台詞で語らせてしまうところがある。
書き込み不足な部分を刺激的な画面や音楽を使って撹乱していることも透けて見え、わけのわからなさをエンタメ化するほどの腕力には欠けているように感じる。
ヒットの法則をそろいにそろえた「テセウスの船」
その点「テセウスの船」はテーマが明瞭、主人公は徹底して正義、家族は善良、見せたいことが決まっていて、そこに脚本も演出も演技も集中しているので、視聴者が解釈を間違えることがない。日曜劇場はもうずっと、このやり方で視聴率をとってきた。
なんといっても「テセウスの船」で描く「タイムスリップもの」は“もし過去が変えられたら……”という、現状を憂ういまの日本人の想いを代弁するような物語なのである。
改めてまとめてみると、時間帯や原作というブランドの安心感、わかりやすさ、好感度の高い、極端な固定イメージのない、もしくは意外性を見せてくれる俳優の魅力。
自分たちの幸福を損なう悪を退治したい願望、そのために過去を変えて未来が変わるという希望。あたたかい家族の関係、バディもの。エモーショナルな主題歌……。
ヒットの法則をそろいにそろえた「テセウスの船」に、大衆性という一点においては軍配を上げざるを得ない。2作の違いは、純文学と大衆小説のようなものなのである。
※こちらの記事は、2020年3月8日に公開されたものです。
記事提供:文春オンライン
2020.03.12(木)
文=木俣 冬