シナリオ会議は7時間に及ぶことも

――最近のギャグ回では、90話「アイドル伝説さざえ鬼」がぶっ飛んでいましたね。

永富 見てて不安になるでしょう(笑)。これ、実は7話ぐらいに出すつもりでシナリオを発注したんですが、上がってきたシナリオがあまりにもイカれていたから、これは放送できない、と僕かなり怒ったんです。

 でも、シナリオライターみんなが、こういう話も大切にしなきゃと盛り上がってしまって。

 それでもお蔵入りにしようとしたんですが、6期の『ゲゲゲの鬼太郎』のテーマは“多様性の肯定”。だれか1人がつまらないとハンコを押した話をお蔵入りにするのは、自分が掲げたテーマとズレているのではないかと思い直しました。

 ただ、キャラクターを壊しかねない話を1クール目でやるわけにはいかないから、番組終了が決まったら後ろのほうで放送しよう、と2年間、“X話”としてとっておいたんです(笑)。ようやく日の目を見ることができました。

――15話「ずんべら霊形手術」、66話「死神と境港の隠れ里」、70話「霊障 足跡の怪」、91話「アンコールワットの霧の夜」などは、2期以来の映像化です。

永富 僕自身が子どもの頃に『鬼太郎』2期の再放送を見ていて、なかでも怖かったのが、このあたりの話なんですよね。

 周りのスタッフに話を聞いても、子どもの頃に見て怖かったという話が2期に集中していて、しかも大体が『ゲゲゲの鬼太郎』が原作ではなく、水木しげる先生の短編漫画を、2期のスタッフが翻案して『鬼太郎』の世界に入れ込んだ話。

 それをもう1回、6期でもやってみようと思ったんです。ただ、なかなか難しかったですね。

――毎回1話完結のエピソードを作るというのは、ものすごくエネルギーが必要な作業だと思うのですが、それだけスタッフの作品に対する愛が強いということでしょうか。

永富 鋭いご指摘で、ほかの原作付きアニメだとシナリオ会議が1、2時間で終わるところを、『鬼太郎』の場合、平均7時間くらいやっているんです。

 どこからその熱量が生まれるかというと、やっている人たちみんな、『鬼太郎』好きなんですよね。やらなくてもいいのに、みんな『鬼太郎』に関わりたいからがんばっちゃう。

 ちょっと話がずれるかもしれませんが、『鬼太郎』は不思議な縁がつながるタイトルだと思います。アニメ放送中に、水木先生のゆかりの地、鳥取県境港や調布市の人たちと繋がって、一緒にイベントをやったのですが、普通のアニメでは、なかなかこんなこと起きません。

 出版社も、講談社から小説が出て、小学館の「コロコロコミック」で漫画を連載して、文藝春秋からねこ娘とねずみ男のムック本が出るなんて、ほかのタイトルだったらありえないですよ。

 『ゲゲゲの鬼太郎』は、いろんなことを超越しているタイトルだなと思います。

2020.03.07(土)
文=CREA WEB編集部