オチが決まらないと 貧乏ぶるいが始まる

――『ゲゲゲの鬼太郎』のキャラクターやストーリー自体は水木先生がおひとりで作られていたのですか?

池上 そうです。貸本版から話を取ってくるときはいいのですが、新しくストーリーを作るときは、ものすごく苦心する場合があるんですよ。

 週刊誌だから、絵は大体3日であげるんですけど、3日目は徹夜になるんです。だからトータルで4日ぐらい。

 水木先生は、最後までネームを切ってから絵を描き始めるのではなく、ラフを描いてはアシスタントに渡し、どんどん進めちゃう。

 それで、3日目の夜明けになっても最後のオチが決まらないと、水木先生の貧乏ぶるいが始まるんです。ダンダンダンダンと。

 オチがうまく出てこないときは、僕に、仕事場の近くに下宿していたつげ先生を呼んで来るように言ってくるんです。

 それで、朝の5時頃につげ先生のところに行くと、もう面倒くさそうな顔をして出て来るんですよ。そのあと二人でぼそぼそぼそぼそ話し合って、完成するんです。

 ストーリーを新しく作る場合は、そういうことが時々ありました。貸本のストックが追いつかなくなっていたんですよね。

 僕から見ると、水木先生は週刊誌にあってないような気がしました。今まで貸本漫画で1冊ずつゆったり描いていた人が、毎週毎週次のサブタイトルまで考えなければならない。だから当時はすごく疲れていましたね。

 水木先生の有名な言葉で、「無為に過ごす」というものがあります。

 水木先生は戦争で南方に行ったときに、そこの原住民に優しくしてもらったわけですが、ああいう人たちは、食べる物があれば丸一日働かないときもあるらしいんですよ。

 そういう生活が理想みたいに思っていた人だから。

2020.03.05(木)
文=「文藝春秋電子書籍」編集部