東京は美術館や博物館の宝庫。話題のアートや貴重な展示が集まる大型施設のみならず、ひとつのジャンルに特化した“マニアック”なミュージアムもたくさん!

 この連載では、東京中のありとあらゆる面白スポットに精通するコラムニストの辛酸なめ子さんが、今注目の“マニアック”ミュージアムをご案内します。


世界各国の希少なバッグ約550点をコレクション

 以前から気になっていた「世界のカバン博物館」。バッグ欲が強い身としては、この博物館でバッグの素晴らしさを学び、ますますバッグへの想いを高めたいです。

 場所は都営浅草線浅草駅を出てすぐの立派な建物。人気のスーツケースや一世を風靡したマジソンバッグなどで有名なエース株式会社が創設した博物館です。

 1975年に「世界のカバン館」としてオープンし、2010年に創業70年事業としてリニューアルオープン。

 ファッションを学んでいる学生から通りすがりの旅行者まで、幅広い客層だそうです。

 創業者の新川柳作氏が世界各国で買い集めたバッグや、寄贈された歴史的価値のあるバッグ、ヨーロッパやアメリカ、アジアやオセアニアなど世界五大陸のバッグ、約550点のコレクションのうち、約270点が展示されています。

 バッグの寄贈を受けてくださるのなら、買いまくって家に死蔵されているバッグが結構あるのですが……。

 「全てお受けしているわけではありません。歴史があるものだったり、キャプションがきちんと書ける作品でないとね」と、おっしゃる館長の廣崎さん。

 確かに……持ち手が細くて肩に食い込んで痛いから使わなくなったバッグなんて展示品としての条件を全然満たしていないですよね。失礼いたしました。カバンを「作品」とおっしゃるところにカバン愛を感じます。

 展示ゾーンは「カバンの歴史」から始まります。

 バッグの歴史は人類の歴史。なんと記録では5000年以上前から存在していたようです。

 紀元前3300年に氷河から発掘されたアイスマンのミイラは、樹皮を編んだポシェットや山羊皮製のリュックなどを持っていたとか。かなりおしゃれ古代人です。

 他にも紀元前2200年のエジプトで供物を運ぶトランクが使われていたり、日本では大国主命が袋を担いでいたり、バッグのいにしえの歴史に思いを馳せました。

 19世紀に産業革命が起こり、交通インフラができて人の移動が活発になったので旅行カバンが生まれました。

 といっても旅行できるのはまだ上流階級だけで、王侯貴族御用達の職人によってルイ・ヴィトンやロエベなどのハイブランドが作られました。

 一般大衆が海外旅行できるようになったのはヨーロッパでは1960年以降、日本では1970年以降だそうです。

 エースのスーツケースは、旅行カバンの草分けとして人気でした。新婚旅行にエースのスーツケースを携えて海外に行くのが、庶民の憧れだったとか。

 最近の軽量化されたスーツケースも展示されていて、驚きの軽さでした。これならお土産を大量に買っても大丈夫そうです。

 カバンに関する豆知識が展示されているコーナーもあり、「ファスナーの修理方法」(ファスナーにロウソクを塗ってすべりを良くする、など)、「バッグの汚れの落とし方」(ナイロン製はプラスチック消しゴムで落とす、など)と、バッグにまつわるライフハックが大充実。

 バッグに関して困ったことがあったら駆け込みたいです。

2020.01.31(金)
文・漫画=辛酸なめ子
撮影=深野未季