「細分化されたパトロン」が
ポップカルチャーを動かす

 ファンの愛と貢献が、ポップカルチャーに大きな渦(ブーム)を起こし、経済を押し上げるまでの力を持ち得るのはなぜか。それは、現代日本の「オタク」女性たちの行動特性や購買パターンゆえだ。

 エンターテインメントビジネスの構造をよく理解している彼女たちは、自分たちが好きな作品や作家、アイドルや俳優を「推す(応援する)」という発想から、オリコンなどのランキング入りや雑誌完売、書籍の重版やグッズの再販などを意図して、何ごとも大量に購入する。

 愛する作品が世界観を順調に継続できるよう、制作が止まらぬよう、キャストや制作者たちを潤わせるのだ。

 彼女たちは、一人一人が「細分化されたパトロン」として作品のスポンサーとなっていることに非常に自覚的であり、チケットであれグッズであれ、何を買うにも早く、大量に、しかも躊躇なく買う。

 イベントがあれば日本国内を縦横無尽に駆け回って参加し、その地でまた仲間を増やしSNSで繋がる。

アラフォー女性の
就業率は8割近い

 その優れて俊敏な動きはいわば「オタ筋」であり、お金に糸目をつけずにもっと買ってあげることができたなら――「私が石油王だったなら」と、誇り高くオタ活を繰り広げるのである。

 そんな彼女たちにとって、待望の劇場版を10回見に出かけるなど、「映画は逃げないから朝飯前」なのだ。

 総務省が2019年7月30日に発表した労働力調査によれば、女性の生産年齢人口(15~64歳)の就業率は71.3%で過去最高。そのうちアラフォー女性に当たる35~44歳は77.8%と、同様に過去最高水準だ。

 これは、働き続ける女性の増加に加え、一度専業主婦になってから再就職する女性の増加が押し上げたものと考えられている。

 「女性活躍推進」の結果、いまや女性の就業者数は3,000万人を超えた。社会と繋がる彼女たちが自分で手に入れた購買力と自由な時間が、文化と経済を変える大きな力となる。

手強いファンに見守られる中での
映画製作

 2018年ドラマの「台風の目」と言われ、局の経営陣からも期待をかけられ、何よりも熱く作品を愛し続ける手強いファン「OL民」たちが作品にまつわる「公式」の一挙一動を見逃すまいと凝視する中での、『おっさんずラブ』映画化。

 筆者はクランクインの前に『おっさんずラブ』の世界を作り出した脚本家・徳尾浩司氏にたっての願いで対談を申し入れ、その様子を2019年6月発売の書籍『オタク中年女子のすすめ #40女よ大志を抱け』(プレジデント社)に収録させてもらった。

 対談中、徳尾氏も語るように、映画化が発表されると「春田(田中圭)や牧(林遣都)や部長(吉田鋼太郎)の幸せな日常を見せてほしい。これがOL民の総意です」というファンの意見が、直接徳尾氏のTwitterアカウントへどっと寄せられたという。

 「徳尾よ、お前は何もしなくていい」とばかりに、テレビ朝日や徳尾氏の事務所へファンから完成した台本原稿が送られてきたこともあったほどだったとか。

 少々常軌を逸してしまうのは、溢れる作品愛の証(?)。そんなファンにSNSで見守られる中での映画製作は、さぞかしプレッシャーだったろうと察せられる。

2019.11.08(金)
文=河崎 環