女性だからの生きづらさを
笑い飛ばしたい
新井 この小説をドラマチックにするために、何かコトを起こしたりはしたんですか?
川上 ドラマティックなものも好きなんですけれど、今回はとにかく、「切実なんだけれど面白くて、ああこの話、まるごと残った!」みたいなものにしたかったんです。
貧乏ってこんなふうに連鎖していくよなとか、女の人の生きづらさってこれだよな、とか、家父長制とか制度とかから弾かれて、しんどい男性も出てくる。運の悪い人も。泣き笑いっていうか、そのムードのなかで、人生において本当に大切な問題について書きたかった。
巻子とか、書いている時すごく楽しかったです。
花田 全体としてとても重いテーマですが、くすっと笑えるシーンが随所にありますね。
未映子さんてお姿もすごくお美しいし、純文学性みたいなものだけでも100点の作家さんなのに、なんで笑わせにくるんですか?(笑)
たとえば、みんなはうまくできていることを自分だけできないみっともなさとか惨めさみたいなものを、『夏物語』に限らず書き続けているじゃないですか。
川上 うん、私自身はそっちのほうに、すごく馴染みがあるんです(笑)。子どもの頃からいじけ癖があって、暗くて(笑)、だから人生とか人間について書こうとすると、それがどうしてもベースになっちゃうんですよね。
でも幸い、病気がなく、一緒にサバイブした姉と弟がいて……あと、やっぱり大阪弁って面白さを連れてくるんですよね。本当にお金がない時も、最悪の状況のときでも、基本的になんか、笑いが入っちゃう。
外からみると、どんなふうに映っているのかわからなんだけれど、仕事とか人間関係とか生活も、何もかもうまくいかない時期が本当に長かったから、今、こんなふうに自分が書いたものが本になってとか、それでこんなにたくさんの人が読んでくれるなんて夢みたいだって、いつも思っています。
花田 「生まれない方が良かったと思っている人はいっぱいいるんだよ」という言葉に、何で? と思う人もいると思います。
川上 善百合子は、夏子がAID(非配偶者間人工授精)シンポジウムで出会った女性ですよね。
わたし自身は出産をしたけれど、彼女の言っていることがよくわかるんです。善百合子は生命自体を否定しているのではなくて、そもそも人が人を生むことに無理があるんじゃないかって言ってるんだよね。
彼女自身は壮絶な人生を送りながらも生まれてきたことを後悔してないけど、でも、産む人と、生まれさせられる側とのあいだにある非対称性について考えてくれよって。
仙川さん(夏子の担当編集者)は経済的なこととか、社会的な苦労から子供って難しいって言うんだけど、善百合子はそもそも越権行為ではないかという発想。
夏子も、人を好きになる気持ちと出産や性器が関係しているのって、私たち織り込み済みでスタートするけど、本当ですか? っていう。
2019.09.15(日)
文=濱野奈美子
撮影=白澤 正