作家川上未映子の最高傑作との呼び声が高い『夏物語』(文藝春秋)。その出版を記念したトークイベント「花田と新井の答えのない読書討論会 vol.3 川上未映子『夏物語』について語る」がHMV & BOOKS HIBIYA COTTAGEで行われた。
大阪の下町に生まれ育ち、東京で小説家として生きる38歳の夏子の中に芽生えた「自分の子どもに会いたい」という願い。パートナーなしでの出産を目指す夏子をめぐる悲喜こもごもの物語は、読み手によってさまざまな表情を見せる。
この、一言では語ることの難しい、それでいて誰かと語らずにはいられない小説をひもとくのは、HMV & BOOKS HIBIYA COTTAGE店長の花田菜々子さんと、同店員の新井見枝香さん。本をめぐる著書もある、最高の読み手の二人と、著者・川上未映子さんによるトークの模様をお届けする。
花田 さっそく我々の感想から。どうでした? 新井さん。
新井 結構時間がかかりました。特に前半。しゃべらない緑子(夏子の姪)を書いた部分が良すぎて、なかなか進まない。純文学とエンタメの差があまりなくなっているような気がしました。
花田 私も今日のためにさらっと読み返そうと思ったんですが、最初の文章からもう面白すぎて飛ばせないんですよ。冒頭、電車で向かい側に女の子が乗っているっていうそれだけエピソードなんですけど、ぐいぐい引き込まれる。
一つの殺人事件を解決するというような引きのある話じゃないし、時制も途中で変わるし、語る人も何人か出てきて話がばらけそうなのにばらけない。
川上 内容についてはどうでした?
花田 いろんな女の人が自分の境遇について語るのですが、子供を産むとか産まないとか言われなくてもいいんだというような普遍的な話じゃなくて、もっと身につまされる、一人の人生がひっくり返される次元のダイナミズムというか。
それでいて、出産を考えている人には、ためになりました! みたいな感想になるかもしれない。そういう複雑さがこの本の魅力の一つかなと思います。
新井 この本はPOP(書店の棚に貼る紹介メモ)がすっごく書きづらくって。
「子供を産みたいと思っている女性にぴったりです!」ではないじゃないですか(笑)。一言では本当につかみきれない、つかもうとしてもすぐすり抜けてしまう。
私、何人かの小説家の人とこの本について話をしたんです。毎回すごく発見があって、びっくりするところに引っかかりを覚える人もいたりして面白かったです。
花田 恋愛小説とも言えるしね。
新井 あと作家が出てくるので、小説を書くことや、表現をすることや、夢を追うとか。
花田 貧困についての小説でもある。今の社会状況で子供を産んで、どう生活していけばいいのかということもすごく書かれているなと思う。
川上 (原稿用紙)1,000枚っていう長さはやっぱりちょっと違うんだなって、今回思いました。いろんな問題を扱えるんだけれども、やっぱり賭けでもあって。
読んでくれる人に1,000枚も付き合ってもらうわけだから、とにかく面白くしたかったんです。そんなふうに読んでもらえてすごく嬉しいな。
2019.09.15(日)
文=濱野奈美子
撮影=白澤 正