◆蒸幸
[溜池山王]
鍋なのに鍋にあらず……?
その謎を解明するべく
裏赤坂の一軒家へ!
「スチームボートって食べたことある? 紹介制なんだけど、俺、会員だから一緒に行こうよ」
「スチームボート」「紹介制」、そして「俺」……、気になるキーワードが並んだ(最後のはどうでもいいか)。ふたつ返事で向かった先は、溜池山王。ANAインターコンチネンタルホテルの向かい側。
「いらっしゃいませ」と中居さんが迎えてくれる。アジア料理だと思っていたのに、この始まりからしてサプライズ。
1階は厨房と個室(セレブのみなさんは他のお客さんと顔を合わせることなく入店できるということですね)。メインの客席は2階だ。
クリームカラーを基調にした上品な店内。ますますアジア料理からかけ離れていく……。と思っていたところで、社長が挨拶にやって来た。若い、イケメンである。開口一番こう言い放った。
「スチームボートはマレーシアやシンガポールで人気の鍋料理なんですけど、正直、現地で食べたときはおいしいと思わなかったんですよ」
えっ。
そこで、自分がおいしいものに作り上げ、日本で広めたかったのだと言う。なかなかやるじゃないか。その原因のひとつは食材だと思い、まずはそこから徹底的にこだわった。
店を調えたあとも味には試行錯誤を重ねること1年。2019年5月にようやくオープンとなった。
コースは、8,000円、13,000円、18,000円の3つ。では、18,000円のコースで実力を余すところなく見せていただきましょう。
桶に盛り付けられた「本日の食材」のお披露目。鮑、牡蠣、帆立、トキシラズ、ハマグリ、タラバガニなど。
鍋にかぶせてあった帽子が外され、スープが投入される。鍋には鶏と豚骨で8時間かけてつくったブロスに魚介のスープを合わせたダブルスープ。
しかし、そこに直に具材を投入するわけではない。ザルをセットし、下から上がってくるおいしいスープのスチームで具材を加熱する。マレーシアでは鍋の形状から蒸気船になぞられ、スチームボートと名付けられたようだ。
ピチピチッ! 元気な海老は飛び跳ねるので、ドーム状のガラスの蓋がかぶせられる。
「次のメニューが蒸し上がるまでのあいだ、こちらを」と出されたお造りに驚いた。正直、鍋料理店の箸休めは、気休めにもならないと思っていたが、「このマグロ、めちゃめちゃおいしいですね」。聞けば、高級寿司店などで扱われている築地「やま幸」のマグロだという。
2019.07.29(月)
文・撮影=Keiko Spice