「楚」の目を見開き、舌をつき出した二頭の獣
紀元前700年頃、殷に続いて中原を支配した「周」が弱体化すると、各地に群雄が割拠し、覇権を争う春秋・戦国時代が幕を開ける。諸子百家と呼ばれた思想家が多数世に出て議論を交わす中から、孔子(前552頃~前479)が現れて儒学の礎を築くのもこの時代である。
展覧会の第2章となるこのパートでは、黄河の下流域で栄えた周の流れを汲む「斉」や「魯」、長江中流域で、中原諸国から蛮族と見なされながら、古来の神話体系を守り、独自の高度な文化を展開した「楚」を紹介。
土着的な信仰の影響を色濃く残し、怪異な姿をとる神や獣の像を崇めた、南方の神秘的な王国、楚。方形の台座の上で背中合わせに立って目を見開き、舌をつき出した二頭の獣の、見たこともない異様な迫力はどうだろう。その頭上には実物の鹿の角を戴き、ほとんど剥落してはいるが、黒漆を塗った上から赤、黄、金の3色で華麗な文様が描かれていたとされる。これは悪霊を退け、墓を守る目的で作られたと考えられる「鎮墓獣」という文物で、楚以外の領域では見られない、まさに楚の文化を代表する作品だ。
あるいはガマガエルにも似た(しかし鋭い牙と鳥のような尾を持っている)不思議な生き物と、その上に乗る鳥を台座にすっくと立つのは、これまた人と鳥が入り交じったかのような、「何」とも「誰」とも言い難い人物像だ。仙人に擬えて「羽人」と通称されているが、楚の文化も神話もその滅亡と共に絶えてしまったため、こうした遺物、そして史料類から類推して、神話体系や文化を復元していくしかない。
2012.10.27(土)