観客と対話できるような
作品を撮り続けたい
――脚本を読んで出演を快諾したショーン・ユーやエリック・ツァンらの効果もあり、『誰がための日々』はスマッシュヒット。17年の香港映画興収第4位になるほか、香港電影金像奨(香港アカデミー賞)では、新人監督、助演女優、助演男優の計3部門を受賞しました。
10年後の香港の未来を問うた『十年』が大きな話題を呼んだことで、香港の観客が映画を観て、社会問題について深く考えるようになり、それが『誰がための日々』のヒットに影響を及ぼしたといえます。でも、『十年』は自主映画であり、『誰がための日々』は商業映画です。また、大きな配給会社が付きましたし、とにかく運が良かった作品だと思います。ただ、今観返すと、未熟な点も多く、100%は満足できていません。未熟といえる時点で、自分は成長できたと思っていますし、今後さらに理想に近い作品が撮れると思っています。
――次回作の構想、そして自身の将来の展望を教えてください。
次回作については、フローレンスと一緒にいくつか脚本を練っています。いちばん早く制作できそうなのは、やはり香港庶民の生活を描いた作品です。ただ、『誰がための日々』ほど、リアルで重厚なタッチではありません。その方が自分としてもフレキシブルに撮るための勉強になると思っていますし、新しい観客が付くことも狙っています。今後も、観客が命や生活や社会環境を考えることができる、観客と対話できるような作品を撮れる監督を目指したいです。たとえ、中国大陸からのオファーでも、自分が撮りたいものに制限をかけられないのであれば引き受けたいと思います。
ウォン・ジョン(黄進)
1988年12月7日生まれ。香港出身。香港城市大學クリエイティブメディア学院で映画芸術を学び、2011年に卒業。短編『三月六日』が第49回台湾金馬奨優秀作品賞にノミネートされるなど、国内外で高い評価を受ける。16年の『誰がための日々』が長編デビュー作となり、アジアで最も次回作が注目される監督の一人となった。
『誰がための日々』
家を出た父やアメリカに永住した弟に代わり、寝たきりの母親を看病してきたトン(ショーン・ユー)。母が風呂場で事故死したことで、重いうつ病を患った彼は精神病院に入院。その後、退院した彼を待ち受けていたのは、父(エリック・ツァン)との狭いアパート暮らし。そして、誤解、偏見、蔑視といった世間の冷たいまなざしだった。
2月2日(土)より新宿 K's cinemaほかにて、全国順次公開
http://www.tagatameno-hibi.com/
(C)Mad World Limited.
くれい響 (くれい ひびき)
1971年東京都出身。映画評論家。幼少時代から映画館に通い、大学在学中にクイズ番組「カルトQ」(B級映画の回)で優勝。その後、バラエティ番組制作を経て、「映画秘宝」(洋泉社)編集部員からフリーに。映画誌・情報誌のほか、劇場プログラムなどにも寄稿。
Column
厳選「いい男」大図鑑
映画や舞台、ドラマ、CMなどで活躍する「いい男」たちに、映画評論家のくれい響さんが直撃インタビュー。デビューのきっかけから、最新作についてのエピソードまで、ぐっと迫ります。
2019.02.08(金)
文=くれい響