“思い通りにならない人生”を描く
『誰がための日々』

――一方、13年、香港政府が新人発掘目的に企画、基金を設立した「首部劇情電影計劃」の第1弾として、『誰がための日々』が選出されます。介護うつの果て、母を亡くした青年と父親の苦悩を描くという、これまでの香港映画のイメージを覆すヘヴィなテーマを手掛けた経緯を教えてください。

 『GOOD TAKE!』での経験を踏まえ、エンタテインメントでなくても、観客が何かを感じ、考える作品作りを考え、フローレンスとともにたどり着いたのが『誰がための日々』でした。綿密なリサーチのうえ、脚本の執筆のために2年を費やしました。通常の香港映画の撮影期間が45日なら、この作品は1/3の16日間。政府からの助成金200万香港ドル(日本円で約3,000万円)のほかに出資を募ることは禁止されていました。そのため、予算も時間も足りず、当初脚本に書かれていた登場人物を数人削りましたが、それでも撮るべき作品だったといえます。

――『誰がための日々』の原題は「一念無明」です。また、英語タイトルの「Mad World」の意味を教えてください。

 原題は、中国仏教で有名な、「大乗起信論」の一節から来ていますが、「どんなに悩み、考えても、人生は自分の思い通りにはならない」という意味です。これは劇中で歯車が狂ってしまった親子、兄弟、恋人など、すべての関係に当てはまることです。英語タイトルは、うつ病患者として精神科病院での入院生活を終えた主人公・トンから“狂って見える世の中”のことを指しています。

2019.02.08(金)
文=くれい響