まるでロデオのように船が揺れる!

 港に集まっているホエール・ウォッチングツアーを開催するショップのうち、「ジェントル・ジャイアンツ」に申し込む。

 訪れたのは、春まだ浅い4月のこと。防水の厚手のつなぎに分厚いソールの長靴、手袋にゴーグルも用意された、北極海仕様のウエアに着替える。

 乗り込む船は機動力のあるゴムボートのようなゾディアックで、シートはサドルのような形をしている。このシートの意味は、のちにイヤというほど思い知らされる。

 湾内は穏やかだが、外洋に出た途端、北極海は本領を発揮する。

 海に弄ばれるボートは、まるで新手のロデオゲームのよう。股でしっかりとシートを挟んでいても、首はがくんがくんと揺れ、冷たい水しぶきをばしゃばしゃと浴びる。

 ボートのキャプテンは周囲の漁船と無線でやりとりしながらクジラを探し、その間に生態について説明をしてくれる。が、北極海の荒波による冷水修行の身では、タメになるキャプテンの話にも上の空だ。

 結局、クジラが現れることなく、冷えたカラダを内側から温めるハーブ入りのリカーを飲んで帰港することに。

 この日はハズレたけれども、フーサヴィークではクジラの王様シロナガスクジラのみならず、小さなネズミクジラからザトウクジラ、ナガスクジラ、マッコウクジラ、オルカなど、多くの種類がみられるのが特徴だ。

 港にあるフーサヴィーク・クジラ博物館で、骨格ながら全長25メートルのシロナガスクジラをウォッチング。

 ここに展示されている11体の骨格標本は、浜に打ち上げられたものや、漁師の網にひっかかったもので、地熱で沸かした湯を使って脂分を抜くのに数カ月から2年もかかるのだとか。

 一体一体に名前もちゃんとついていて、それだけ愛情をもってクジラと接しているのがわかる。

2018.08.01(水)
文・撮影=古関千恵子