≪夜まで待てない≫
2012 アクリル・カンヴァス
197.0×182.5cm
(C) NARA Yoshitomo
撮影:木奥惠三

 可愛らしさの奥に不穏なほど強い意志を秘めた子供や動物たちが、忘れがたい印象を刻みつける絵画、立体作品で知られる現代美術作家、奈良美智。2001年に国内で初めての大規模な個展「I DON'T MIND, IF YOU FORGET ME.」をスタート(国内5カ所を巡回)させた横浜美術館から再び、個展「奈良美智:君や 僕に ちょっと似ている」巡回展ツアー──国内のみならず海外まで拡大された──が始まっている。

「君や 僕に ちょっと似ている」は、ビートルズの楽曲「Nowhere Man」の歌詞に登場するフレーズ。11年前の個展からの、奈良の心情の変化を端的に表したものだ。

 展覧会に寄せたメッセージで奈良は、「2001年の横浜個展では、作品たちはあくまで僕のものであり『I DON'T MIND, IF YOU FORGET ME.』という展覧会タイトルのように突き放すことだって平気だった。(中略)世の中には自分と作品しかないよう感じていたし、逆にオーディエンスにこそ『僕のことを忘れて欲しい』とさえ思っていたのだ」と語っている。

≪Real One≫
2012 アクリル・板
169.5×194.0×7.5cm
(C) NARA Yoshitomo
撮影:木奥惠三

 ところが2011年末にカタログレゾネ(編纂時までに制作した各作品の題名、制作年、技法、サイズ、用紙、限定部数などのデータが図版と共に掲載された総目録集)を刊行、結果的に自らの作品史を振り返ったこと、そして東日本大震災を経験したことなどを通して、「作品を自分の元から旅立たせること(作品自体としての自立)を現実的に考えられるようになったようだ」と言う。

≪My Bear≫
2012 アクリル・板
174.0×174.0×9.0cm
(C) NARA Yoshitomo
撮影:木奥惠三

 作品はもはや「作家の自画像」だけではあり続けられず、鑑賞者が、自分や自分の家族、親しい友人を投影する対象となり、また美術史の一隅を占めるものとして、作家がこの世を去っても在り続けて行く。100%自分のものでも、100%鑑賞者のものでもなく、それぞれに「ちょっと似ている」存在。いわば父母それぞれからDNAを受け継ぎながら、そのどちらにも属さない、独立した自我を持つ個人、つまり人間と同じようなものなのだ。

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2012.07.28(土)