『何度でも食べたい。あんこの本』(文春文庫)の発売を記念して、こちらの本に掲載されているあんこ名店から4軒をご紹介。小豆の旨さが詰まった菓子と、それを支える職人たちの物語を、著者の姜尚美さんが綴ります。

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冬とこたつと水羊羹

◆えがわの水羊かん
 (福井市・照手)

販売は11月から3月のみ。B5サイズの「水羊かん」は、プリッと固めに寒天を利かせた黒糖ズキにはたまらない味。

「こたつの上には2つのカンがなくちゃ。何かわかる? ミカンと水羊羹」

 うまい! ちなみに私の名前もカンです。そう切り返すと、[えがわ]の2代目・江川正典(えがわ まさのり)さんは嬉しそうに驚いてくれた。

 沿道に雪かきした塊が残る、12月下旬。[えがわ]が一年で一番忙しい時期だ。福井では冬に水羊羹を食べる習慣がある。そう聞いて取材にやってきたのだ。

「なぜ福井では冬に水羊羹を食べるのか、みんな当たり前すぎて理由を考えもせんかった。大衆的なお菓子やで、いつなぜ生まれたのか文献的に何もないんです」

 冬に水羊羹を売る店は県内に多くあるが(市内で約50軒)、水羊羹一本なのは[えがわ]だけ。地方発送を始めたのもここが最初だ。販売は11月から3月のみ。B5サイズの「水羊かん」は、プリッと固めに寒天を利かせた黒糖ズキにはたまらない味。みずみずしい食べ口、付属のへらですくう楽しさに何度も冷蔵庫を開けてしまう。本来は家庭で作るもので、冷蔵庫のない時代は、弁当箱に流して外で冷やす、そんな光景も見られたらしい。

 帰りに寄った駅前の百貨店で水羊羹フェアをやっていたので見ていたら、隣のご婦人が「次はどの水羊羹を買えばいいと思う」と相談を持ちかけてきたので、電車に乗り遅れそうになってしまった。

えがわ
所在地 福井県福井市照手3-6-14
電話番号 0776-22-4952
営業時間 8:00~19:00
定休日 水曜(水羊かん販売時期は無休)
※水羊かんは11/1~3/31のみの販売で700円
※通販可

姜 尚美(かん さんみ)
1974年京都生まれ、在住。「Meets Regional」「Lmagazine」などの雑誌編集部を経て、2007年よりフリーランスの編集者およびライター。他の著書に『京都の中華』(幻冬舎文庫)、共著に『京都の迷い方』(京阪神エルマガジン社)がある。

『何度でも食べたい。あんこの本』
みずみずしいあんこ、ふわふわのあんこ、ジャンクだけれど泣きたくなるあんこ……あんこが苦手だった著者が「手のひらを返すように」開眼し、京都、大阪をはじめ、全国36軒を訪ねたあんこを知る旅。小豆の旨さの活きる菓子と職人達の物語がぎゅっと詰まった一冊。7年半分の「あんこ日記」も特別収録。

姜 尚美・著
本体850円+税 文春文庫
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