絵画の可能性を問う「フォト・ペインティング」は圧巻
リヒターの特徴のひとつは、表現手法の多彩さだ。写真をキャンバスに拡大して描く「フォト・ペインティング」、色見本のような規則的な色彩のパターンが美しい「カラーチャート」、絵の具を何層にも塗り重ねてはそぎ落とす手法で描かれる「アブストラクト・ペインティング」など複数のスタイルを同時並行的に手掛けてきた。写真的なリアリズムから抽象までの幅広い表現のなかで、常に絵画の可能性を問い続けているところにリヒターの凄さがある。
「フォト・ペインティング」では新聞や雑誌の写真や家族アルバムの写真をキャンバスに忠実に拡大して描き、絵の具がまだ乾かないうちに画面を均して「ボケ」のような効果を作り出している。曖昧な記憶のようなイメージは、リヒターの個人史やドイツの歴史とも重なり合い、観る人のさまざまな想いを呼び覚ます。
またこの展覧会に連動して、ベルリンの博物館島(ムゼウムスインゼル)の旧国立美術館でもリヒターの代表作「1977年10月18日」の連作15点が特別公開されている。
70年代に過激なテロ活動を行ったドイツ赤軍の幹部メンバー3人が獄中で自殺した事件を題材とした「フォト・ペインティング」のシリーズで、1988年に発表された当時、大きな論争を巻き起こした。
現代史の重く暗い記憶に根ざした作品から感情を揺さぶるような色彩の乱舞まで、絵画の持つ表現力の豊かさを改めて感じさせるリヒターのアート。
デジタル全盛の時代にアーティストはなぜ、敢えてキャンバスに向かい、絵筆を手にするのか? その答えを知るには絶好の展覧会だ。
「ゲルハルト・リヒター:パノラマ」展
2012年2月12日~5月13日
新国立美術館(ベルリン)
URL www.gerhardrichterinberlin.org/index.php?id=1133&L=1
「1977年10月18日」展
2012年2月12日~5月13日
旧国立美術館(ベルリン)
URL www.smb.museum/smb/sammlungen/details.php?lang=en&objectId=17&n=1&r=2
ケルン大聖堂
URL www.koelner-dom.de/home.html?&L=1
Column
世界を旅するアート・インフォメーション
世界各地で開かれている美術展から、これぞ!というものを、ジャーナリストの鈴木布美子さんがチョイスして、毎回お届けします。
あなたはどれを観に行きますか?
2012.03.31(土)