一生ものになりうるコスメはいかにして生まれたか? 美容ジャーナリスト歴四半世紀の渡辺佳子が直撃取材!

 “コスメ職人 情熱大陸”と題して、4回にわたって職人・開発者たちの情熱をお届けします。

 今回は第1回資生堂マキアージュです。

資生堂がそのプライドの全てをかけた新ルージュ

 落ちにくさ、ツヤ、うるおい、美発色、つけ心地のよさを最高レベルで実現、というマキアージュの「トゥルールージュ」。しかも揮発成分の働きで唇表面を皮膜で覆って落ちにくくする従来の技術を使わず作ったため、発売予定を1年延ばしたと聞いては取材魂に火がつくというもの。開発の中心人物、湯浅純子さんに話を伺った。

左から渡辺佳子さん(美容ジャーナリスト)、笹田かおりさん(資生堂 リサーチセンター)、湯浅純子さん(資生堂 国内化粧品事業部)

「グロスブームが長く続いてきましたが、グロスのツヤツヤ&キラキラの透明感が最高潮に達すれば、再び口元に色が戻ると見ていました。すると実際、数年前からグロスに色がつき始めたのです」

 この時期はちょうど「モテ」の価値観が出てきた頃と重なる。

「不景気が長引いて将来の先行き不安が強くなると、女性が守ってもらう存在として可愛らしくあることが肯定的にとらえられますよね。それで『顔の下半身』、私が思う、女を語るゾーンの時代が戻ってくるなと確信しました」(そういえば日本女性の唇から色味が消えた90年代半ばは、辛口オトコマエ女子が登場した頃だった。)

「それで口紅の新提案をあげたのが09年10月。そろそろ質感的にも強いテカテカ・キラキラではなく上質&上品な光沢感に移行するタイミングだろうと見込んだのです」

 だがそこで、あえて落ちない機能をつけた理由は? 機能競争は90年代で終わっていた気が……。

「でも、元来、美しさを演出するためにつける口紅ですから、いつまでも落ちずにいてほしいと思うのは基本的な願いでしょう? 90年代後半の落ちない口紅は、ともかく『色』が残ればよいという考えでしたが、その後も『うるおい』を含めて持たせるという挑戦は続いていたのです。グロスに人気が移った理由はうるおいが持続してついている感があるため。実際は色落ちしているのに残っている感触が唇にあるから安心感がある。それならそのレベルをめざそうと」

 資生堂としてできうる、最高の落ちない口紅を改めて作ろうと?

「はい。口紅は商品としての形も、女性が塗っている姿も、やはりいちばん美しさを感じさせますから。それで『発色、ツヤとうるおい、溶けていくようなのびと、快適なつけ心地、色持ち、これが一本でかなう口紅を作ってください!』と研究所に依頼したのです。空前のグロスブームを経てきた女性たちは、ここまでやらなかったら口紅に戻ってきてくれませんからね」

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2012.03.13(火)
text:Keiko Watanabe
photographs:Nanae Suzuki / Hirofumi Kamaya

CREA 2012年4月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

一生もの美容

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