ニッチなのに主役になれる製品とは?
そういう時代をずばり象徴しているのが、資生堂のプレイリスト。このブランド、資生堂のアーティストが集合して本当に欲しいものを作りたいと、企画を持ち寄って商品を開発するという、全く新しい仕組みにより生まれたもの。だからニッチなのに主役になれるような製品が目白押しなのだ。
例えばマスカラなのにアイライナーも兼ねているような不思議な製品がある。これは、特殊なブラシで根元にもしっかりと当てられる上に、まつ毛の間を埋めるライナーにもなる。確かに下まぶたは、まつ毛なのかラインなのかが曖昧な影を作るのがテーマだけに、このマスカラ&ライナーが大変に重宝する。同様に、こういうものが欲しかったのと嬉しくなるような有能ニッチが今シーズンも登場した。
一つは、化粧下地ならぬ化粧上地のケータイ用。日中いつでもどこでもフレッシュな肌を蘇らせる上に、ヨレも直して朝よりもきれいな肌を作ってくれる。そう、これも欲しかった。メイクの消しゴムも従来のものよりももっとピンポイントでもっと確実にミスを消せる使いやすいペンシルリムーバーになり、オプションというより、どうしても必要な定番アイテムになりそうな気配。
こんなふうに、ニッチがニッチでなくなったのも、一つには、コスメ・テクノロジーが思い切り進化して、中途半端ではない、一度試したら絶対に手放せなくなる技ありコスメが開発できるようになったから。そして何より美容が成熟して、本当に必要なものがハッキリ見えてきて、オプションとはいえ、あってもなくても……というものではなくなったから。実は必要というものばかりが作られるようになったから。いよいよ、メイクが完成に近づいていることの表れなのである。
齋藤 薫 (さいとう かおる)
女性誌編集者を経て美容ジャーナリスト/エッセイストに。女性誌において多数のエッセイ連載を持つほか、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。『“一生美人”力』(朝日新聞出版)、『なぜ、A型がいちばん美人なのか?』(マガジンハウス)など、著書多数。近著に『されど“男”は愛おしい』(講談社)がある。
Column
齋藤 薫 “風の時代”の美容学
美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍する、美容ジャーナリスト・齋藤薫が「今月注目する“アイテム”と“ブランド”」。
2017.07.03(月)
文=齋藤 薫
撮影=釜谷洋史