なぜニッチ・コスメがどうしても
必要と思えるようになったのか?

ここで言うニッチとは、言うまでもなく隙間。マーケティング用語で、大きな市場と大きな市場の間に生まれる、盲点をつくような隙間マーケットを、ニッチ産業と呼ぶ。
そういう意味で、コスメ界においてはこの“ニッチ”というジャンル、ずいぶん昔から存在していた。そもそもが、化粧下地のような脇役アイテムからニッチというジャンルが始まったわけだが、コスメ界は長い間試行錯誤を繰り返してきた業界でもあり、今までの歴史においては、必要なもの不必要なもの、あっという間に消えていったものまで、ともかく山ほどのニッチ・コスメを作ってきたのだ。
例えば、メイクの消しゴムやアイライナーシール、首用ファンデにハンド用ファンデ、鼻周りだけを洗うクレンジング、最近の例でも、涙袋を作るペンシルや頰のてっぺんだけツヤを出すバームなどなどと多岐にわたるが、ニッチはニッチ。それ以上の存在感を示すことはなかったのだ。

ところが最近になって、ニッチ枠に収まらないほどの存在感を持ち始める。例えばまつ毛コームも、大昔からあるニッチ・コスメの一つで、使う人は使うし、使わない人は使わない、完全なるオプションだったが、ここへ来て、一見マスカラコームに見えて、実はリムーバーというアイテムが登場した。思わず、そうそう、こういうものが欲しかったのと、ヒザを打ったもの。これを作ったリンメルが同時に発表したのが、何と“豪雨でもにじまないマスカラ”。ニッチとはいえ、誰もが欲しがるものが次々と商品化されているのだ。
2017.07.03(月)
文=齋藤 薫
撮影=釜谷洋史
CREA 2017年7月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。