食べ終えた後に広がる余韻に色気が
7皿目は、赤紫色のジュレに包まれた半球体の小さな塊が皿の中央に鎮座している。フォアグラとレンズ豆のムースに赤ポルト酒のジュレをかけたものであるが、酸味の出し方が素晴らしい。
最近の若い日本人シェフは、酸味を控える傾向にあるが、やはりフランス料理は、酸味の立たせ方が命である。甘みや旨みと対をなす酸味があってこそ、味に奥行きと品を漂わせ、かつ何皿を食べ続けても飽きない楽しみにつながる。
鷦鷯シェフはその辺りを十分わきまえていて、フォアグラをひとさじすくい、食べ終えた後に広がる余韻に色気があって、うっとりとさせる。
魚料理は「桜鯛のポワレ リゾット桜のソース」で、精妙に火を通された鯛の滋味が、口の中で弾け飛ぶ。新鮮なホワイトアスパラガスとモリーユを合わせた、ミネラル感を堪能する料理を挟んで、子羊のロティが出される。
この子羊のロティが素晴らしかった。希少な、フランスはロゼール産の仔羊には、いたいけな歯応えがあって、噛んではいけないものを噛んでしまったような、禁断の美徳がある。
緻密な肉を噛むと、歯が優しく包まれ、ゆっくりと肉汁が現れる。そこには拙さを携えた甘みがあって、巧みに酸味を忍ばせたソースが持ち上げて、エレガンスを漂わす。鷦鷯シェフの精妙なキュイソンと、仔羊に対する敬意が生んだ逸品である。
デセールは「バニラとフランボワースのソフトクリーム」と「長崎産琵琶のコンポートと山椒のアイス」。ここにもまた、日本の食材をデセールに仕立てる鷦鷯シェフの巧みなセンスとユーモアが夢を呼ぶ菓子である。
レストランにいくということは、「非日常を味わう」という楽しみを得る行為でもある。そういう意味でもここ「ラ・メゾン・ドゥ・グラシアニ」、神戸という地においては、最も適したレストランではないだろうか。
ラ・メゾン・ドゥ・グラシアニ
所在地 兵庫県神戸市中央区北野町4−8−1
電話番号 078-200-6031
営業時間 12:00~14:00(L.O.)/18:00~21:00(L.O.)
定休日 月曜(祝日の場合は火曜)
http://www.graciani-kobe.jp/
マッキー牧元(まっきー・まきもと)
1955年東京出身。立教大学卒。(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く。「味の手帖」 「銀座百点」「料理王国」「東京カレンダー」「食楽」他で連載のほか、料理開発なども行う。著書に『東京 食のお作法』(文藝春秋)、『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)、『ポテサラ酒場』(監修/辰巳出版)ほか。
Column
マッキー牧元の「いい旅には必ずうまいものあり」
立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く「タベアルキスト」のマッキー牧元さんが、旅の中で出会った美味をご紹介。ガイドブックには載っていない口コミ情報が満載です。
2017.06.08(木)
文・撮影=マッキー牧元