日本の民藝運動の旗手
柳宗悦と濱田庄司も訪れた地
同じくデヴォンにある、趣向の異なる宿泊施設をもう1軒ご紹介しましょう。
南デヴォンにあるDartington Hall(ダーティントン・ホール)は、14世紀後半にイングランド王リチャード2世の異父兄弟にあたる、一代目エクセター公ジョン・ホランドによって建立された歴史ある建造物。
中庭の風景は、一見、ハリー・ポッターの魔法学校の世界から抜け出てきたかのような雰囲気をかもしています。それもそのはずで、1925年、485ヘクタールもの敷地を持つこの邸宅の持ち主となったエルムハースト夫妻は、その後先駆的な思想で、ダーティントン・ホールを新しいかたちの教育機関へと発展させたのでした。
音楽学校やアートスクール、演劇学校、インターナショナル・サマースクールなどが設けられ、著名な芸術家や音楽家が数多く、この地を訪れていますが、そのなかには、大正末から昭和にかけての民藝運動の旗手、柳宗悦と濱田庄司の名前も連なっています。
ふたりは、1952年7月、ダーティントン・ホールで行われた、陶芸とテキスタイルをテーマとした国際工芸家会議(International Conference of Craftsmen in Pottery & Textiles)に、かねてから親交のあった英国人陶芸家、バーナード・リーチとともに参加しているのです。
同ホールのアーカイブから、この会議で柳は3つの講演を行ったことがわかっています。その内容は「日本人の工芸に対するアプローチ」「美に対する仏教的見解」「総論」だったそうです。一方、濱田は、ろくろを使った陶芸デモンストレーションを行ったことが、その日のプログラムから見て取れます。
ダーティントン・ホールといえば、地元デヴォンの人々の週末のデスティネーションにもなるほど、見事なガーデンで知られているので、ガーデン散策はマストですが、少しだけ時間を長めにとって、中庭を歩きつつ65年前にこの地を訪れたふたりの日本人に思いを馳せてみるのも一興です。
2017.05.28(日)
文・撮影=安田和代